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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第18章
己の作り出した金の繭の中、ヴィヴィは最期となる頼みを懇願する。
「お願い。目の前にある幸せにちゃんと気付いて。お兄ちゃんには無償の愛をくれる息子が、もう二人もいる」
そう、もう貴方は、
幼い頃の様に “独り” なんかじゃない。
「ちゃんと二人を……匠斗と、瞳吾……。守って。幸せにしてあげて?」
匠海への恋心を自覚するまでの自分が包まれていた、目も眩むほど眩い幸福――それで、兄の大事な息子達を満たしてあげて欲しい。
きっと、
いや――絶対に、匠海ならば出来るから。
ゆっくりと頭を上げたヴィヴィは、己の妄執に巻き込まれたなれの果てである匠海をしっかりと認め。
そして、一言一言、噛み締めながら互いに言い渡す。
「私達の運命は、どこをどうしても交わらない。これまでも、これから先も――」
「……どう、してだ……?」
運命の車輪に下敷きにされた男があげた苦しみの声は、車輪を司る運命の女神・フォルトゥナに「この世の諸行無常への嘆き」を訴えるようでもあり。
それをひたと見据えたヴィヴィは、
(車輪の下に潰された者、頂点で輝いている者を、ただただ見つめている運命の女神とは、こういう心持ちなのだろうか?)
そう思いを馳せながら、答えを待ち望む男の前に、残酷な運命を差し出した。
「兄妹、だから」
心から愛した妹からの最悪の拒絶の言葉に、兄の顔からは表情が剥がれ落ち。
やがてそれは、逞しい両腕に覆い隠され見えなくなった。
音もなく踵を返したヴィヴィは匠海をその場に残し、己の私室を後にする。
『やめろっ! ヴィヴィっ……俺達は、正真正銘、血の繋がった兄妹なんだぞ――っ!!』
15歳の自分の凶行を必死に治めようとした兄の叫び。
それは、金の容れ物の中に轟き、
白い頭蓋骨の中でわんわんと共鳴し。
やがて僅かな苦みだけを残し、霧散した。