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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第19章
「そして、ヴィヴィ――。君は明日から、4回転ジャンプの練習を始めるよ」
「……――っ うぇえええええ~~っ!?」
せっかく「セクシーな女性」と皆に褒めそやされたのに、そんな素っ頓狂な声を上げては丸潰れである。
だが今のヴィヴィには、外聞を取り繕っている余裕は無かった。
(4回転って、こ、この、私が……っ!? いえいえいえいえ、挑戦したことすらないというのにっ!?)
「僕達はこの五輪で必ず金メダルを取る。その為には何が必要か――? 君だって本当は分かっている筈だ」
「―――っ」
躊躇なく核心を突いてくるクリスに、ヴィヴィの華奢な肩がびくりと震える。
「五輪プレの昨シーズン、SPは勿論のこと、妹が滑った “FSの構成” は、もうこれ以上無いものでした――。3回転アクセル2本、3回転ルッツ2本、他にも難度の高い順に3回転を組み込む……。正に “妹にしか出来ないプロ” だった」
只ならぬ雰囲気の双子を息を呑み見守っていた皆に、クリスがとつとつと背景を説明し、そしてまた妹を追い込む
「じゃあ、五輪シーズンの今、何をするの――?」
「………………」
ジュニアでポンポン4回転を飛ぶロシア勢が出てきた。
確かに昨シーズンのエレメンツは今の自分の最難度のものばかりで、これ以上 構成を弄ることすら叶わない。
けれど自分には(女子の4回転ジャンパーでも飛べない3回転アクセルという)高難度のジャンプと、プログラムの完成度の高さがある。
そう無意識に己で作っていた限界の壁を、双子の兄は容赦無く目の前で叩き壊してくる。
「完成度の高い4回転を少なくとも1本、そして3回転アクセルがあれば、君なら一番高い所に登れる」
俯いてしまった妹の両肩を包み込むのは、とうに自分のそれより大きくなった掌。
「そして、それをたった一年で成し遂げられるジャンプ・コーチは、僕以外にこの世に存在するとは思えない」
きっぱり自信満々に言い切れるクリスには、確固たる勝算があるのだろう。
何故なら、双子の妹のスケート、そして心の弱さを、
この23年間、片時も離れることなく見続けてきたのだから――