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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第19章       

打ち合わせていた通り、本日のもう一人の主役であるクリスが、皆に向かい堂々たる挨拶を始めた。

「今日はみんな集まってくれてありがとう。英国に移住して約2年、この地で沢山の掛け替えのない友人・恩師に恵まれ、僕達は最高に幸せです」

ダイニング、リビング、サンルームをぶち抜き、その先に広がる庭にも散らばっていた客達が続々と双子の周りに集まり、皆が口々に囃し立てたり、ヒューと口笛で応えてくる。

「ありがとう。さて、晴れて23歳になった僕達にとって、最大のイベントは――」

「MBA取得~~っ」

「もちろん、オリンピック!」

「いやいや、卒業試験もっ!!」

「ダリルちゃんとの、結婚――っ❤」

クリスのフリで返って来たのは、双子がこれから越えねばならぬ課題ばかり(最後を除く)

「もちろん、カレッジも卒業出来ないと不味いですが。そう、やはりなんと言っても、四年に一度しか巡ってこない――来年に控えるオリンピックです」

双子の兄の隣に立っていたヴィヴィも、長いピアスが揺れるのも構わず、うんうんと頷いて同意する。

「そこで、今日はこの場を借り、僕から重大な発表があります」

「…………?」

(うん? 重大な発表――て、何だい?)

主役の一員のくせに全く聞かされていなかった展開に、ヴィヴィは頭一つ分上にある兄を見上げるが、ラム革ベストを小粋に纏ったクリスは前を向いたまま続けた。

「僕、篠宮クリスは昨日の5月1日をもって、篠宮ヴィクトリアのジャンプ・コーチに就任しました」

「……は……?」

ぽかんと開口したヴィヴィの声を掻き消したのは、

「え? クリス、現役引退するのか?」

「そんな……、嘘でしょ!? イヤ――っっ」

五輪二大会連続王者の乱心に、周りからは戸惑いと、悲鳴に近い声が上がった。

「まさか。現役を続けながら、コーチ業もする」

「……クリス?」

周りの声を呆気無く一蹴した兄に対し、話に付いて行けない妹はというと、戸惑いの表情を浮かべるのみ。

しかし当のクリスは、おもむろにヴィヴィに向き合うと、爆弾発言を投げ付けた。

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