この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第19章
「ありがとう、ヴィヴィ。……そうだ! 話は代わるが、クリスはどうだ? ちゃんとジャンプ・コーチは出来ているのかな?」
気を使ってか話題を変えてくれたグレコリーに、ヴィヴィはぱっと顔を上げで大きく頷く。
「うんっ 出来てる! もう凄いのっ クリスったら、私の身体の全てを把握しているみたいで!」
「え?」
「たぶん、筋肉の一筋、微細な骨の動きまで熟知してると思う。あれは、うん! 目から発射したX-Ray(放射線)で私の身体の中を見てるんだわっ」
両拳を握り締めながら滅茶苦茶な説を語るヴィヴィに、グレコリーは今日初めてとなる彼らしい明るい声を上げて笑う。
「あはは! そりゃ凄いロボットに進化したな」
「だってね、聞いてよ! 今日もね――」
陰鬱としていた場が一瞬で楽しい親子の空気に充たされ、互いに爆笑し合った二人は、笑顔で回線を切ることが出来たのだった。
父との電話を終え、防音室に向かったヴィヴィだったが、ヴァイオリンケースを目の前にしても、その手は開けられなかった。
(離婚……かぁ……)
薄い唇から洩れた嘆息には、深い疲労が滲んでいた。
『そもそも、瞳子とは「第二子が満三歳を迎えれば離婚」という契約だった』
匠海が言った通りであれば、三年後に控えていた離婚が前倒しされただけ、という事にはなるが。
だが、瞳吾が0歳の今より、3歳になる未来の方が、あの家族にとっては救いがあったのだろうか?
瞳子も ああは言っていたが、義姉の方が “実妹と不倫する夫” に嫌気がさして離婚を切り出したのか?
一瞬そう思ったが、何故かヴィヴィには匠海の方から一方的に離別を切り出したのだろう、という気がした。
(人の家庭の事は判らない――けれど、そもそも “家庭” だったのかすら……)
砂上の楼閣とはさもありなん。
「なんやねん、もう……」
久しぶりに関西弁で突っ込んだヴィヴィだったが、陶器の擦れる様な音が微かにし ふと目をやると、いつの間にかフィリップがソファーに座し、優雅に紅茶を嗜んでいた。
いつもの事過ぎて、見なかったことにしたヴィヴィは、出してきたばかりだった楽器のケースを、元の位置まで戻しに行く。