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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第19章
「今、松濤の家に帰って来ている。匠斗はこちらに、瞳吾はあちらで親権を争うらしくてな……。もう本当に、何が何だか……」
公私共にメッキが剥がれてしまった様な息子の挙動に、グレコリーはもう呆れた様子を隠そうとはしなかった。
再び革の椅子に上半身を投げ出した父に、体格も骨格も良く似た男の影を重ねてしまい、ヴィヴィの視線が辛そうに下がっていく。
匠海との未来を信じて疑っていなかった頃――ヴィヴィは何とか兄の役に立ちたいと、経済界の集まりに同伴し、間近でその仕事ぶりを目にすることもあった。
そこでヴィヴィが得た人脈は、今も続いているものが多く感謝している。
おそらくグレコリーは、まだヴィヴィが匠海の仕事に少なからず関与をしていていると見ていて、そこから何かヒントを得ようとしているのだろう。
だが――
「……ごめん、ね」
「うん? ヴィヴィ?」
俯いたまま ぽつりと謝罪した娘に、父は少し驚きを滲ませた声で呼びかける。
「私には、もう何も解らない。今の私じゃ、何の役にも立てない」
本当に解らないのだ。
今の自分には匠海との関わりが何一つない――仕事も、プライベートも。
そして、それらを自ら絶ったヴィヴィには、もう「兄を解かろう」とも思えないのだ。
匠海の本当の望みは何なのか――?だなんて。
「ごめんね、ダッド」
それに自分はもう、兄に会うつもりはない。
二度と会わない――その言葉をもう嘘にしない為にも、ヴィヴィはたとえ日本に戻ろうが、松濤には近寄らないと決めていた。
今度こそ、絶対に。
「……そうか。そうだな。いや、ヴィヴィが謝ることなんて無いんだよ」
「………………」
「うん。クリスにも昨日尋ねてみたら、少し心当たりがあるみたいでね。あの子から直接話してみてくれるって」
「……そっか。そうだね、うん……。良い方に転がるといいね」
頼りにならないどころか迷惑ばかりかける駄目な妹に比べ、その双子の兄は常に優秀、常にトップ、両親や周りからの人望も厚い。
ふとそう自虐的になってしまったヴィヴィは、そんな事を思っても何の得も無いと強引に金の頭から追い出した。