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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第19章
「いやあ、どう見てもセフレ? 元彼? と別れてボロボロ、という感じだと思ってたんだが。いや~~、傷心の乙女に付け入るのは流石に俺の流儀に反するかな? と思って。でも、よぉ~~し、俺のターンきた――っ!!!!」
逞しい両腕を天に突き上げ、全身で喜びを表現する男の前、
「……ずけずけ言うなあっ」
そう言った女は悔しそうに小刻みに震えていた。
「デート! 今からランチ……はお腹一杯か。じゃあ、ディナーは……って、ヴィーはレッスンか! では土日はどうだ!? 映画? ドライブ? それともハイキングにでも行くか?」
「……気が早い」
自分から提案したにも関わらず、相手のテンションの高さにげっそりしたヴィヴィは、いきなり後悔し始めた。
「そりゃあ、ヴィーと付き合うのをずっと心待ちにしてたんだから、しょうがないさ」
「はいはい。じゃあ、カレッジのライブラリー行ってくるから」
吾輩は卒業試験間近の学生である。
時間はもう無い。
「じゃあ、俺も」
そう追随してきたフィリップに、ヴィヴィは「え゛~~~」と至極面倒くさそうな声を上げる。
「ちゃんと隣で静かに勉強するから、な?」
「……はいはい」
まあ確かに、彼はうちに来るときはいつも数冊の書籍を小脇に抱えているし、ライブラリーにも入り浸っているのかもしれない。
いつもなら「付いて来るな!」と即答するヴィヴィの了承の声に、青い瞳を見開いたフィリップ。
「……――っ」
何故か腰あたりで右拳を小さくガッツポーズすると、まだ残っていたらしい紅茶を飲み干し、執事の持つトレイに戻した。
「ご馳走さま、朝比奈。行ってきます!」
「行ってらっしゃいませ、お嬢様。フィリップ様」
まるで尻尾を振るようにヴィヴィの後を追うフィリップに、見送る朝比奈は苦笑を隠せなかった。
(なんだか、飼い主と従順な大型犬に見えるのは、気のせいでしょうか?)
しかし銀縁眼鏡の奥の瞳は、主の喜ばしい門出に心配の色を覗かせる。
ヴィクトリアに新たな恋人が出来た日は、くしくも、彼女の元思い人の生誕の日でもあるのだ。
「………………」
誰もいなくなった防音室に一人立ち尽くした執事は、けれど直ぐ二人分の茶器を片し部屋を後にした。