この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第19章
Des nuits d'amour a plus finir
尽きる事の無い 愛に満ちた夜
Un grand bonheur qui prend sa place
不安や苦しみは消え去り
Des ennuis, des chagrins s'effacent
大きな幸せに取って代わり
Heureux, heureux a en mourir
そして
私は 死ぬほど幸せだった――
ひたりと背後に立った男――もとい匠海は華奢な肩に手を乗せようとしたが、すっと立ち上がったヴィヴィが避けた。
化粧気のない薄い唇から発された「停止」の指示。
指示を受けたタブレットは至極従順に、部屋に満ちていたシャンソンのムードをかき消した。
部屋の温度が一気に下がったのは気のせいだろうか。
否、目の前に立ちはだかる男が発するのは、冷気を纏った憤怒。
その理由に心当たりのあるヴィヴィは、微かに肩を落とし兄を避け部屋を横切る。
おおかた双子のホームリンクにフィリップが現れるようになり、それをリンクのカメラを通して確認した匠海が、後先考えずに飛んで来たのだろう。
いつまで下らない監視を続けるつもりなのか。
妹はもう “家族としての絶縁” まで言い渡したというのに。
『もう、金輪際、二度と会わない』
そう告げたヴィヴィの気持ちや至った過程など、この男にとっては取るに足らない事なのだろう。
一瞬脳裏に過ったのは、両腕の中に顔を隠し絶望を押し殺していた兄の姿。
チクリと胸を刺す痛みは一生消えないだろうが、今から自分が相手に与える苦しみに比べたら微々たるものだろう。
勉強道具を広げたままのライティングデスクに戻ったヴィヴィは、一番小さな引き出しを探り。
そして音もなく振り返ると、手にした小冊子を男に向けて差し出した。
「好きな金額を書いて?」
「……は……?」
「手切れ金? それとも、解決金かしら――? もし今払えない金額だったら、一生働いて払い続けるわ」