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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第19章
五輪を締めくくるFS――その氷の上で何もかもを見失った自分。
ジャンプでの転倒による軽い脳震盪。
目の前に広がるのは、畏怖を覚えるほどの、白一色の世界。
静か過ぎて、心細くて、底抜けに冷たい場所。
歩くよりも先に慣れ親しんでいた筈の、氷上。
その場所で初めて経験した恐怖を思い出し、下半身から這い上がってきた悪寒に、華奢な身体はぞっと身震いした。
(いや……だ……。いや、だ……。いやだっ!!)
そこからはまるでスローモーションのような、コマ送りのような時間だった。
全身で拒絶したヴィヴィは、両腕で兄を押し返し。
けれどビクともしない匠海は、まるで飢えた野獣のように妹の衣服を引き千切っていた。
放射線を描いて弾け飛ぶボタン。
兄の指に絡みついた金髪、そして頭皮が引っ張られる痛み。
思わず涙目になった ぼやけた視線の先に、その人は静かに佇んでいた。
確かに先刻、外出した筈だったのに。
兄と妹の醜い諍(いさか)いを、ただただ静観する、もう一人の兄弟。
「……ク、リス……っ」
掠れた声で必死に求めた双子の妹の懇願に、クリスは鷹揚に頷き。
そして、何も目と耳に入っていない長兄に、いつも通りの声で呼び掛ける。
「駄目だよ、兄さん」
ぎくりと動きを止めた匠海。
ようやく弟の存在に気付いた らしくない兄は、そちらを見ることは無かったが。
「駄目だよ、兄さん。
そこまで、堕ちぶれては――」
窘める響きを含んだ弟の言葉に、妹を鷲掴んでいた両手からは やっと力が抜け、
そして、
兄という支えを失った華奢な身体は、耳障りな音と共に壁を削りながら床へ伏したのだった。