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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第19章       

ヴィヴィの小気味良い突込みに一笑したフィリップは、ソファーに深く腰掛けなおすと、思案気に顎に拳を添えていたが。

やがて意を決したように、少し離れたところで椅子に座るヴィヴィを見据えた。

「ただし、条件がある」

「条件……?」

「キス、出来るかい?」

「え?」

「ヴィーから、俺にキス――。それが出来るなら、セックスしよう」

試験官の様にありきたりな課題を提示するフィリップに、ヴィヴィはというと一切の躊躇を見せずに椅子から立ち上がる。

音も立てずにルームシューズで部屋を横切ると、白革のソファーに佇む男を見下ろす。

いつだか目にしたテレビで「古代ギリシャの彫刻が現代の服を着て歩いている」と評された端正すぎる顔には、特に欲情の色も浮かんでおらず、平静そうに自分を見上げていた。

下ろしていた長い髪を両手で押さえたヴィヴィは、前屈みになり、精密に彫られた石膏の如き唇に、己の薄いそれを押し当てる。

硬くて冷たい――そんな先入観通りな訳が無く。

ちゃんと肉感的で暖かな唇を、ちゅうと長めに吸ったヴィヴィは、ゆっくりと上体を起こした。

「もう一回」

そう追試験を要求するフィリップに、ヴィヴィはソファーに片膝を乗せると、角度を変えて唇を合わせる。

口角、下唇、上唇の尖り、を順に吸い上げれば、微かに開かれた唇の合わせ。

ちろりと舌先でそこを舐め確かめたヴィヴィは、ゆっくりとフィリップの中に挿っていく。



『……キ、ス……しても、いい?』

キスなんかより先に、とうに躰を繋げていたのに。

(お兄ちゃん……好き……)

膨れ上がりすぎて収拾がつかなくなったその気持ちを、どうしても伝えたくて、恐る恐る尋ねた問い。

掌で触れていた兄の腕が、その言葉に一瞬ピクリと動き。

やがて赦しを与えるように、自分の方に上体を傾けてくれた。

全身が心臓になったかのようにドキドキして。

そして、心の底から湧き上がってきたのは、類を見ない幸福。

けれど、唇を押し当てただけの稚拙過ぎるキスを受けたあの人は、

『ヴィクトリア、お前――これだけの性知識で、よくも俺のこと、襲ったな?』

そう、少し悔しがりながらも、心底から呆れ返っていて――


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