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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第20章
これまでチュートリアルという個別指導の時間を通じ、ヴィヴィたち学生は教員の反論に打ち負かされながら、独自の見解を説得力ある方法で説明する術を習得してきた。
(あの地獄の鍛錬を乗り越えてきたんだから、やってやれないことはない――っ! ……はず)
そんなこんなで自らを奮い立たせたヴィヴィは、丁寧に玄関まで見送ってくれた3人に後ろ手に手を振りながら出立した。
心地良い6月の風に、サブファスク(黒のアカデミックガウン)の裾がひるがえる。
オックスフォード大学の正装――ガウンの下に(女子は)スカート、白シャツに細い黒リボン、黒タイツ、を纏ったヴィヴィが向かったのは、この3日間お世話になった花屋。
店頭に置かれたある花を、同じカレッジの学生達が手に取っていた。
「おはよ~、ケン、トーマス。やっと最終日だね」
「お~~、ヴィヴィ。これで君の眼の下のクマも見納めだと思うと、感慨深いよ」
「いや、お前も相当ひどいって」
他愛もない軽口を叩く三人の目の前にあるのは、真っ赤なカーネーション。
伝統的な白黒のサブファスクを彩る “胸の飾り” だ。
試験1日目は白、2日目はピンク、そして最終日である本日3日目は赤である。
「Good luck carnations for exams.」
幸運を祈る札が添えられたそれを手に取りレジに向かえば、店員が手際良く短く切り胸に飾ってくれた。
「健闘を祈るよ、ヴィヴィ!」
「頑張りまっす!」
店員に敬礼して店を後にしたヴィヴィは「一発合格」を胸に、試験会場へと急いだのだった。
三時間後――
試験会場の外には鉄製の柵が張り巡らされ、その向こう側には沢山の在学生が詰めかけていた。
彼らの手には何故か小麦粉やシャンパンボトルが握られ、「CONGRATS ウィル!」というプラカードや、色とりどりの風船を持つ者もいる。
そして、試験会場から疲労困憊で吐き出されてきた学生達を見つけると、柵の向こうから歓声が上がり、皆それぞれ粉を振り掛けたりシャンパンを浴びせかけたりと、どんちゃん騒ぎが始まった。