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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第20章
漆黒だけが降りていたリンク中央。
そこに長く横たわるのは、海面に伸びた月光の如き、光の道筋。
そして響き始めたのは、女性のしなやかな歌声。
I have a dream
――私には夢があるの
A song to sing
――いつも歌う歌
To help me cope
――どんな時も
With anything
――助けてくれる歌
軽くスモークが焚かれた光の筋――
そこを双子それぞれの影が通り過ぎる度に、小さな歓声が寄せては返す。
If you see the wonder
――おとぎ話の不思議が
Of a fairy tale
――分かるなら
You can take the future
――未来も受け入れられる
「練習では もう4回転フリップの精度も上がっているという、ヴィクトリア選手。本番では、どうか――?」
緊張を押し殺した中村アナの声。
そして、歌声が止んだリンクに届いたのは、ヴィヴィの声で録音された言葉。
『Even if you “fail”……
――たとえ “失敗” したとしてもね……』
ぱっと晴れた視界。
皆が目を瞬かせ、その明るさに順応しようとした瞬間。
ブレードで氷上のスモークを切り裂きながら、ジャッと音を立て踏み切ったクリスとヴィヴィは、それぞれ理想の軌跡を描きながら見事に4回転トゥループを着氷した。
途端に地響きの如く沸き起こった、歓声、悲鳴、驚嘆の声。
「決めた――っ! ヴィクトリア選手、ついにやりましたっ!」
「はい、予定通りの四回転トゥループ。クリス選手ともども、公式戦なら加点も貰える素晴らしいジャンプでした」
見事に有言実行したヴィヴィは軽くガッツポーズすると、すぐに役に入り込む。
鮮やかな赤い水着の腰にパレオを巻いたヴィヴィは、水着の中からサングラスを取り出すと、茶目っ気たっぷりに装着する。