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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第21章 .
雨続きだったオックスフォードに、久々に射した日差し。
空気の入れ替えの為ほんの少し開けていた窓からは、秋の気配も色濃い紅葉が臨める。
カサカサと乾燥した葉同士が擦れ合う音と、すぅすぅと安寧を貪る寝息。
静寂だけが満ちていた空間に、静かな足音と途切れ途切れの鼻歌が混じり始め。
白の革張りカウチでうたた寝をしていた女が、微かに目蓋を震わせる。
Quand il me prend dans ses bras,
――貴方が私を腕に抱き寄せ
Qu'il me parle tout bas
――そっと囁く時
Je vois la vie en rose,
――私の人生は 薔薇色になるの
幸福に擦れた歌声が昏い目蓋の裏に引きずり出したのは、もう二度と思い出したくなど無かった、過去の残像。
『長い間、夢見ていた……。ずっと……、ずっと “ここ” に――』
誰もが羨望の眼差しでかの長躯を追いかけるというのに、
その当人はというと、
二十余年の歳月 持て余し続けた、憎愛と妄執が混在したものに操られていた。
Il me dit des mots d'amour
――耳元で 貴方が囁く
Des mots de tous les jours,
――愛の言葉に満たされた日々
Et ca m'fait quelque chose
――私の中で何かが変わり
その心に 貴方が入り込んだ――
『そうしたら、お前は一生俺の傍にいてくれる。そうだろう?』
白皙の肌に影を落とす長い睫毛。
だのに、
その下から覗くのは、
独り残された孤独から這い上がらんと血走った、切れ長の瞳――
「~~~っ!!!」
カウチに預けた躰をびくりと戦慄かせ、咄嗟に覚醒したヴィヴィ。
知らぬ間にかいていた冷たい汗に乱れた金髪が張り付き、その間から覗いた灰色の瞳は まるで犯行現場で捜査に加わる警察犬の如く、ぎょろりと目を凝らす。
微かに上下していた肩が ぎくりと強張ったかと思うと、
「……来て、たの……」
いつのまにか同室していた来客を認め、緊張を多少緩めながら寝起きのしゃがれ声で呟いた。