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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第21章 .

薄手ニットの下に着たインナーがぐっしょりと濡れていて、その気持ち悪さに顔をしかめつつ張り付いた髪を掻き上げれば、

「おはよう、俺のヴィー。寝起きの顔もとびっきり素敵だね」

「………………」

上辺だけの言葉を並べてくる男に、白々しすぎて取り合う気の無い女は無視を決め込んだが。

しかし、次に告げられた言葉には音速の素早さで飛び起きた。

「明日からフランスだろう? 俺も観戦に行っていい?」

「――っ!? そ、それだけは勘弁っ!!」

確かにフィリップの祖国は、フランスからめちゃくちゃ近いけれども。

こんな悶絶級の美形男子が例えホームレスの変装をしようが、無駄に醸し出されるオーラのせいで、瞬時に周りに身元がバレるのは目に見えている。

しかもフィリップが明日から始まる双子の試合の観客席に居たと知られでもしたら、前のモニャコグランプリに続き “飛んで火に入る夏の虫 パート2” になってしまうではないか。

「ふぅ、しょうがないねえ。じゃあお詫びに、俺にキスしてくれる?」

「……なんでやねん」

ひと月程前、彼じゃない相手に対し己も口にした言葉に、ヴィヴィは一瞬眉をひそめたのち、そう突っ込んだ。

「疲れてるな」

ひょいと持ち上げられた顎に抵抗する隙すら与えず、しげしげと顔を覗き込んでくるフィリップ。

こういう色男にしか許されないであろう仕草をさっとやってしまう辺りに、彼の女性遍歴が垣間見えたがそんな事はどうでもいい。

「誰かさんのお陰でぇ~~、夢見が最悪だったんでぇ~~」

恨めしそうに語尾を伸ばして訴えるも、フィリップは首を傾げるだけで通じていないらしい。

「曲……」

忌々しそうに理由を告げるも、

「ああ、『La vie en rose(薔薇色の人生)』? ピアフばりに上手だった?」

「………………」

現彼女がSPで滑っている曲を歌っただけの彼氏は、何の悪意も無くにやりと笑んで見せる。

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