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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第21章 .
その後に読み上げられた得点に、キスアンドクライのヴィヴィは心底ホッとした表情を浮かべ。
そして両脇に座るショーン・ヘッドコーチとクリス・ジャンプコーチと肩を組んで喜び合う様子が、世界各国のお茶の間に届けられたのだった。
その後、滑走後の選手のインタビューを挟み、中継は六本木のスタジオへと切り替わった。
興奮冷めやらず饒舌な出演者の面々の様子は、それもその筈。
すぐに執り行われた表彰式にて、その最後にコールされたヴィヴィは、観客と他の選手に最大限の敬意を払いながら、一番高い場所へと昇った。
グランプリ・ファイナルでの優勝――
今までシニアにおいて、ほぼ敵無しと言っていいほど独占してきたその場所は、今シーズンは縁遠かった。
表彰台上で直立し、国歌斉唱・国旗掲揚で自国のそれが称えられる様を見つめていたヴィヴィが、衣装の袖で目頭を押さえる様子が、画面にアップで映し出されたのも仕様が無い事だったろう。
「ああ、篠宮選手、思わず感極まってしまいましたか」
とアナウンサーが伝えれば、
「ヴィヴィちゃんの今のプレッシャーは、自分達が想像も付かないほど凄まじいものでしょうからね」
と、芸人が引き継ぐ。
「五輪までの限られた試合数の中で、新しい技に着々と挑戦し、かつその精度を上げていかなければならない――そんな難題をやり遂げてみせた篠宮選手に、我々も沢山の勇気と希望を貰いましたね」
アナウンサーのしみじみとしたまとめに、アイドルが潤んだ瞳で「うんうん」と賛同していた。
いつもは突拍子もない辛口を発する社会学者・古市も、今日はしみじみと口を開く。
「昨シーズンまでは孤高の存在だった彼女が23歳になった今、8歳も年下のジュニア上がりの子供達と比較され続けている――。本人は口にしないけれど、途轍もなくしんどい状況だろうなと推察します」
「そうですね。追われる立場でもあり、追う立場でもありますからね。我々の想像もつかない葛藤があるでしょうし。それは篠宮選手が超えてきた幾多の先輩スケーター方も、恐らく味わってきたものでしょうね」