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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第21章 .
英国オックスフォードに構える、篠宮双子の屋敷。
その1階に位置する防音室では、ピアノの音色が響いていた。
ビッグシルエットのパーカーにレギンスという、ラフなスタイルのヴィヴィが弾いているのは もちろん、今シーズンのFS『恋は魔術師』に用いられているそれ。
4分の2拍子で刻まれる伴奏に支えられ、謳い上げられるのは呪術がかった旋律。
3連譜や髪飾りのような小さな音符達が、フラメンコ特有のこぶしを効かせ、情熱的かつミステリアスに曲を盛り上げていく。
強弱を付けながら奏でられるE音のトリルは、まるで燃え盛る炎の中で断末魔の叫びをあげる怨霊のよう。
やがて曲はクライマックスに向けて加速し、両手を鍵盤に叩き付けるヴィヴィの華奢な身体も、椅子の上で上下する。
15小節に渡り刻んだ和音。
そして雪崩の如き重低音と共にフィニッシュしたヴィヴィは、4分間の曲の余韻を吹き消すようにペダルから足を上げると、何故かガクっと金の頭を垂れた。
「……はは。今(こん)先生のクリスマスの完璧な演奏後に、自分のこの演奏は、正直ヤバいですね」
そう恥ずかしそうに自嘲したヴィヴィは頭を上げると、こちらに向けられる小型カメラと、それを構えるNHKの三田ディレクターを振り返った。
2025年12月某日。
今年も残るところ僅かとなったその日、ヴィヴィは国営放送の密着取材を受け入れていた。
数日前に行われた全日本選手権で、圧倒的な大差をつけて優勝したヴィヴィ。
そのエキシビションとして毎年行われているオールジャパン メダリスト・オン・アイスにて、ヴィヴィは元恩師である白砂 今のピアノ演奏に乗せ、即興で『火祭りの踊り』を滑った。
もう何年もタッグを組んでいる二人には多大なる賞賛が寄せられたが、たった今 自分が弾いてみせた演奏は、白砂のものとは比べ物にならない貧相なものだった。
「そんな事無いよ。それにそれでなくても、今はフィギュア漬けなんだから」
三田の優しいフォローにも、ヴィヴィは困った様に首をすくめるのみ。
ピアノを演奏する前に捲り上げたはずの両袖は、鍵盤から掌を退けた途端にずれ下がり、指先まですっぽりと隠してしまう。
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恋は魔術師 より 火祭りの踊り
https://www.youtube.com/watch?v=pPtYKH6nGWk