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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第21章 .
それもそのはず。
数日前、クリスから「ネットで買ったら、サイズ小さくて……。いる……?」と尋ねられ譲り受けたパーカーは、メンズサイズなのでやはり大きすぎるのだ。
「あ~~、それが……。そうでも無いんですよね」
袖から覗いた指先でぽりぽりとこめかみを掻くヴィヴィに、三田が「ん?」と相槌を寄越す。
「ええと……。9月までは学部に在学していて、本当に分刻みでスケジュールが詰まっていて。確かに身体的にはしんどかったんです」
「うん」
「でも、今、卒業して、その……フィギュアだけに集中出来る環境になっちゃって。逆に精神的にしんどくなることもあって……」
「24時間、フィギュアのことばかり考えちゃう?」
三田のその指摘に、ヴィヴィはコクリと大きく頷く。
「そう! 凄く贅沢な時間だし、どっぷりのめり込めるのも、とても貴重な体験なんだけど……。だけど “これまで” には無かったから……。だから……、一時は正直 “気持ちの切り替え” が出来なくて、戸惑っちゃって――」
8年前の五輪はBSTに在籍していたし、4年前の五輪は東大に在籍し、両方とも勉学と両立していた。
周りから見れば過酷な状況でも、ヴィヴィにとっては学問にのめり込んだり、学友達と他愛もない話をしたりしている時間が、フィギュアから逃れられる貴重な瞬間だったのだろう。
9月 フィンランディア杯
4回転フリップ 初挑戦
10月 GP① フランス杯
(4回転フリップ予備)
11月 GP② NHK杯
4回転トウループ 初挑戦
12月 GPファイナル
3F+2Lo+2Lo → 3F+1Eu+3Sに変更
12月 全日本選手権
五輪プロのリハーサル
五輪へと向け、チームが立てた上記のスケジュールは「躓(つまづ)く事が許されないプラン」だった。
9月の初戦で4回転フリップが降りられなければ、その次のフランス杯に。
そのフランス杯で降りられなければ、NHK杯に予定していた4回転トウループには挑戦出来なかっただろう。
常に新たなエレメンツに挑戦し続けねばならず、一息ついて守りに入ることなど有り得なかった。
だからヴィヴィは自分の首を絞めないように、周りを焦らせないように、
そしてジャンプ・コーチであるクリスの経歴に汚点を残さぬように、無意識の内に自分を追い詰めていた。