この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第21章 .
――――
「――ちゃん。……ヴィヴィちゃん?」
いつの間にか過去をなぞっていたヴィヴィを、現実に引き戻してくれたのは三田だった。
その呼び掛けに はっと我に返ったヴィヴィが、何かを誤魔化すように指で髪を梳る。
「……って事で、もう、クリス様サマです。ほんと、足を向けては寝れない。あはは」
そう取って付けたように苦笑したヴィヴィは、
「ノド乾きません? お茶、入れ直してきますね」
とやや強引に話題を切り、席を立った。
淹れ直した紅茶を手ずからカップに注ぐヴィヴィに、三田は話をFSに戻してくれた。
今シーズンのはじめ、ヴィヴィは各社のインタビューに対し、
「 “過去の弱い自分” と決別できるよう、このシーズンを通してFSと向き合っていく」
と応えていた。
その今シーズンも、五輪と世界選手権を残すばかり。
だから三田ディレクターが次に寄越した質問は、当然のものだった。
「 “四年前の自分” は、弱かった――?」
「………………」
過去の弱い自分 = 四年前の五輪で大敗した自分
表の自分を知る人々なら皆、そう思い描くだろう。
カップに紅茶を注ぎ終えたヴィヴィが、白い湯気のくゆるそれを三田の前に置きながら頷く。
「弱かった、ですね。色んな意味で――」
己の茶器を取り上げたヴィヴィは、執事・朝比奈が客の為にブレンドした茶葉の種類を推し量るように、目蓋を瞑りながら香りを吸い込む。
弱かった。
そして、今も弱い。
ふとした瞬間に思い出す過去に、昇華し切ったはずの想いが燻り始め、その事に途轍もない虚無感と、己の芯の部分から消す事が叶わぬ男の存在を思い知らされる。
それはそうだろう。
この23年間、誰よりも近くで言葉を交わし、深いところで交わり、心を通じ合わせてきた家族、だったのだから。
「その亡霊とは、お別れできそう?」
FSのテーマに沿わせてきた三田に、ヴィヴィは困ったように眉根を寄せながら苦笑する。
「う~~~ん。亡霊かぁ……」
元夫の亡霊が嫉妬し、新たな恋人との恋路を邪魔してくる。
そして元妻は、かつては愛した亡霊を火祭りで除霊して、新たな一歩を歩み始める。
そんな『恋は魔術師』のストーリーに共感して、今シーズンに取り組むことを決めたのは確かだ。