この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第22章
「大丈夫~~。飛行機の中でウトウト出来たからね」
そう執事を安心させながら大量の未読メールに目を滑らせたヴィヴィは、その中から数通を選んで開く。
そしてその1つに添付されていた画像を目にすると、何故だか「え゛ぇ~~……」と情けない声を上げながら項垂れた。
昨日――2月14日に執り行われた、男子シングル個人戦 SP。
奇しくもバレンタインであったその日。
2分40秒の滑走時間の間、試合会場のメディオラヌム・フォーラムに詰めかけた観衆の瞳を、見事なまでに釘付けにしたクリス。
そんな兄が滑り終えるのを誇らしげに見つめたヴィヴィは、常の通りリンクサイドで出迎えた。
いつもなら軽くハグをして妹に応える兄だが、その日は違った。
何故かフェンス手前の氷に跪いたクリスは、あろう事か。
まるで永遠の愛を誓う貴公子張りに、うやうやしく妹の手の甲にキスを落としたのだ。
そのクリスのキザ過ぎる行為に、場内は黄色い歓声と叫び声に埋め尽くされ。
そしてその大音量にもびっくりしたヴィヴィは、大きな瞳を真ん丸にひん剥いた――そんな間抜けな顔を、世界各国のカメラに撮られまくったのだ。
『シスコンも ここまで来ると もはや伝統芸wwww
日本の情報番組は この話題で持ちきりだよ!
超ウケるwww』
と草を生やしまくったカレンからのメールに、ヴィヴィは「クリスのばかぁ!! もう恥ずかしすぎて日本に帰れない……orz」と返信したのだった。
到着までの2時間を ほぼメール確認で消費したヴィヴィだったが、オックスフォードの屋敷に辿り着いた途端、その玄関ホールで朝比奈の首根っこに飛び付いた。
「え……っ!? お、お嬢様……っ」
色気もくそも無いスポーツウェア姿の主が、お仕着せの黒スーツを纏った執事に熱い抱擁をする様は、はたから見れば まるで “禁断の恋に落ちている主従” のようだが――
「あ~さ~ひ~なぁ~~~っ ただいま! ただいまっ ただいまぁ~~っっ!!!」
そう叫びながらスーツの胸に顔を擦り付けてくるヴィヴィの様子は違っていた。
一瞬 驚嘆した様子の朝比奈だったが、すぐに金色の頭と華奢な背に、白手袋を纏った掌を添えてくれた。