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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第22章
なんならオバケ以上の恐怖を味わい続けて来た筈なのに、そう心底安堵したヴィヴィ。
隣で気持ち良さそうにすやすや寝入っているクリスの、その自分そっくりの細く高い鼻を指で摘まんで起こしてやろうとしたが。
「……ふがっ……」
巷では「氷上の王子様❤」と誉めそやされている兄は、そんなブタ鼻を鳴らしただけで、覚醒する事は無かった。
「ぶ……っ ふふ、あははっ!」
初めて聞いた兄がたてた間抜けな音に、ヴィヴィは思わず声を上げて笑ってしまい。
けれどどう考えても深夜であるので、何とか笑いを噛み殺し、そしてクリスの寝乱れた髪を指先で整えてやる。
指の間をサラリと流れる直毛、触り心地、色の明るさ。
どれを取っても双子の自分と瓜二つである。
二卵性双生児なのに。
「……私のこと、心配して……?」
思わず唇から零れたのは、今のクリスには届かない言葉。
ちょうど4年前に行われた、双子にとって2度目の五輪。
そのFSの前夜、匠海の裏切りを知った自分は正体不明となり、急性胃腸炎を発症。
翌日のFSは周りに止められたにも関わらず強行出場し、結果、4年間の努力の一握りしか出せずに玉砕した。
あの時に生まれて初めて感じた、
広大なリンクに たった一人で立つ――その恐怖。
そして、4年後の今現在。
FSにて、また同じ過ちを繰り返してしまうのではないかと、周りも、自分も、無意識の内に恐れていた。
その心の弱さゆえ、見てしまった悪夢。
そしてジャンプコーチでもあるクリスはというと、当人の妹よりも、その内なる恐怖に早く気づき。
こうして一晩中、ずっと傍にいようと来てくれたのだ。
「……どんだけぇ~~……」
(どれだけ、私のこと、解ってるんだ……)
おもわず某美容家を真似て突っ込んでしまったヴィヴィだったが、すぐに薄い唇を窄めた。
4年前のFS滑走後。
キスアンドクライで うな垂れた自分に、母と兄が両側からフォローの言葉をくれ続けていたこと。
バックヤードに引き上げた途端、崩れ落ちるように意識を失ったヴィヴィを、抱き止めてくれた兄。
周りから隠す為に顔の上にジャージを掛けてくれ、そして守るように ぎゅっと強く抱き締めてくれたこと。
どれだけ、どれだけ、心強かったことか。
その瞬間だけでも「大丈夫」
そう、思えたことか。