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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章   


 ぽかん。


 という言葉しか、その時のヴィヴィを言い表わすものは無かったろう。

 朝日というには高い日差しが、ウッドブラインド越しに差し込むそこ。

 4名は座れそうな、オフホワイトの大きなソファー。

 そこで匠海の胸に頭を持たれ掛けていたヴィヴィは、

 見開いていた目蓋で、取りあえずぱちぱち瞬きしてみる。

 そして、内心首を傾げた。
 
(……ん……?)

 夢の中でも、瞬きはするのだろうか――?

 今のこの説明出来ない状況は “夢” の中であって

 だとしたら、先程は “夢” の中で更に “夢” を見ていた事になるのだろうか?

 だってそうでないと、辻褄が合わないのだ。

 遠く離れたエディンバラにいる筈の匠海が、自分の傍にいるのも。

 匠海が自分を抱っこしながら寝ているのも。

「………………」

(なんだ、夢か……)

 薄い唇から、微かな嘆息が零れる。

 そりゃあそうだ。

 今や他の女の夫となったこの人が、自分なんかにこんな事をする謂れは全く無い。

 兄の無防備な寝顔を見上げていた灰色の瞳が、失望と共にゆっくりと落ちて行く。

 が、ヴィヴィはそこで思い直した。


 もしかしたらこの夢は、神様が見させてくれたのかも知れない。


 この世を去る覚悟を決めた自分に、最後の御褒美(?)――と、都合の良い夢を見せてくれたのかも。

 また兄へと瞳を上げたヴィヴィ。

 左頬に触れる逞しい胸筋の感触は、覚えていた。

 物心付いた頃から、自分の定位置は兄の股の間で。

 それは1年半前まで、当たり前の様に続いていた。

(……夢なら、いいよね……?)

 誰にか分からぬ問い掛けをしたヴィヴィは、

 紺のVネックの襟元にそっと、細く高い鼻を擦り付ける。

 そこからふわりと香ったのは、ボディーソープの香りと。

(ああ……、お兄ちゃんの香り……だ)

 薄い胸の奥が、とくりと甘く疼く。

 兄だけの香り――。

 それは、緑萌ゆる深い森を連想させるそれ。

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