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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章
スンと仔犬の様に鼻を鳴らせた、その時、
『……お前は、大丈夫……なんだよな?』
『普通、姉妹は兄弟の匂いを、厭(いと)うらしいぞ?』
『近親者を恋愛対象に感じさせない為、らしい』
ある日の兄の言葉が、ふと脳裏を過ぎり。
まだ腫れぼったい目蓋が、現実から目を背ける様に閉じられる。
もう、どうでもいい――。
過去も未来も、自分にはもう無意味なもので。
今は、ただただ、目の前の匠海を感じていたい。
五感の全てをフル稼働させ、兄だけを再確認して。
そうしたらもう、他に望む事は無い――。
しばらくそうして、兄の暖かさと香り、安らかな息遣いを堪能していたヴィヴィだったが、
「……ん……?」
急に疑問形の唸りを上げる。
(五感って……確か、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚……だよね?)
こんな状況にも関わらず、ヴィヴィは変な事が気になり始めた。
自分は兄を視たし、寝息を聴いたし、触れているし、香りも嗅いだけれど。
“味わって” はいない――。
ぱっちりと目蓋を開いたヴィヴィが、少し不満気に唇を尖らせる。
(……舐めちゃおうか……?)
だって、最期だし。
相手は寝ているし。
それに “夢” だし。
思い立ったら即実行とばかりに、ヴィヴィは兄の立派な咽喉仏に向かって首を伸ばしてみる。
が――。
(と、届かない……)
寝ているくせに、妙にがっちり拘束してくる兄のせいで、
ヴィヴィは色素の薄い逞しい咽喉を前に、オアズケ状態になってしまった。
「むぅ……」
薄い唇から、その精神状態に不釣り合いな拗ねた唸りが漏れる。
(舐めるまでは、絶対にあの世には行けない!
どうか、神様っ
“冥途の土産” に “お兄ちゃんの咽喉仏” を――!!)
本気なのか冗談なのか。
兄の拘束から身を捩って逃れようとした妹を、逞しい両腕は更にきつく抱き寄せてきて。
(ぐ、ぐるじい……っ)
結果的に余計悪い状況に陥ってしまったヴィヴィ。
匠海の股の間で戒められた状態で、全く身動きが取れなくなってしまった。
しかし、妙にリアルな夢だ。
暖かいし、香りがするし、ちゃんと色まであるし。
「………………?」
というか。
これは、本当に “夢” なのだろうか――?