この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章
視界に入った匠海は、心底眠そうで。
差し込む日光にさえ目に染みる――とでも言いたげに、目をしぱしぱさせていた。
「……ベッドで、眠れば……?」
何故か解らないが、そんなに眠いならば、寝室で数時間眠ったほうがいい。
視線を外しながら、当たり前な助言をした妹に、
「ん~~、ヴィヴィを抱き枕にしていいなら、ベッドに行くけど?」
甘えた声音で囁きながら、腕の中の妹を覗き込んで来た匠海。
少し充血した瞳とばっちり目が合た途端、ヴィヴィの頬がかっと火照り。
咄嗟に顔を背けた妹は、蚊の鳴くような声で否定した。
「……ダメ……」
冗談でも、そんな事を口にすべきじゃない。
普通の兄妹が、同じベッドで寝る筈が無いだろう?
つい先程、
『 “冥途の土産” に “お兄ちゃんの咽喉仏” を――!!』
そう主張していた自分を とんでもなく棚上げし、ヴィヴィは正論を述べた。
「じゃあ、このままでいい」
妹の返事に異論を唱えなかった兄は、本当にその言葉通り、
5秒後には、オフホワイトの背凭れに黒い頭を預けて眠りこけていた。
(ウ、ウソ……。本当に、寝ちゃった……)
すーすーと微かな寝息を立てる匠海に、ヴィヴィはしばらく呆気に取られていた。
しかも、数分経っても起きるどころか、
自分を繋ぎ止めるその人は、更に深い眠りに就き始めていた。
しばらくは、そんな兄を困った様子で見上げていたヴィヴィ。
やがて時間が経つにつれ、
火照っていた頬の熱が、徐々に引き。
さざ波が立っていた心が、まるで鏡面のように凪いで。
「………………」
常の自分を取り戻したヴィヴィは、
恐るおそる、元々凭れていた兄の逞しい胸に、半身を預けた。
あの頃よりも、丸みの減った頬に感じるのは、
トクトクと規則正しく刻む鼓動に、
呼吸に合わせ、微かに上下する胸板。
(大丈夫……生きてる……。
お兄ちゃんは、ちゃんと、生きている……)
そんな当たり前の事を確認し。
もう一度、兄の寝顔を振り仰ぎ。
そうして、長い睫毛を湛えた目蓋は、ゆっくりと伏せられていく。