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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章
もう、これが夢であろうが現実であろうが、どうでも良かった。
自分を物理的に包み込む、兄の高い体温。
自分の知覚過敏な神経を和らげてくれる、兄だけの香り。
それだけで、
ヴィヴィはうつらうつらと、夢と現実の狭間を漂える。
誰にも見咎められない。
誰にも糾弾されない。
いっとき限りの “まやかしの時間” は、
この1年数ヶ月の中で、
ヴィヴィが一番、幸福を感じたひと時だった――。
結局、2時間寝ていたらしい兄妹が、目を覚ましたのは昼の12時頃だった。
「取りあえず、眠気は無くなった」
と言いながらも、兄はまだ大きな欠伸を噛み殺していた。
「あの……」
おずおずとそう切り出したヴィヴィに、
「ん?」
そう気安く顔を覗き込んでくる匠海。
もちろん、ヴィヴィはぱっと視線を外し。
2時間前に何度も言い出そうとした懇願を、今度こそ言葉にした。
「は、離して……?」
意識が無い兄とならば幸福なこの状態も、
こうはっきりと自分と対峙する匠海を前にしては、またヴィヴィの全てが挙動不審に陥ってしまう。
なのに、
「やだ」
「えぇ……!?」
「だって、ヴィヴィ。俺のこと真っ直ぐ見てくれないし」
「……――っ」
兄の指摘に、ヴィヴィはぐっと押し黙る。
(だ、だって……、こんな抱っこの状態で、顔見ちゃったら……。は、話なんて出来ないもん……)
「それに離したら、脱兎の如く逃げるだろう?」
また図星を刺され、気まずくなったヴィヴィは、取りあえず話を反らした。
「……ここ、どこ……?」
「だから、秘密だって」
苦笑した匠海は、2時間前と同じ返事を寄越す。
何故にそこまで頑なに、居場所を教えようとしないのだろうか?
「……どうして、お兄ちゃんと一緒にいるの……?」
それともこの部屋にいるのが2人だけで、隣の部屋には両親やクリスがいるのだろうか?
「ん? そんなの、ヴィヴィに会いに来たに決まってるじゃないか」
「……早朝便、で?」
「ううん。レンタカーで、夜通しずっと運転して……で、寝不足だったわけ」
兄の返事に、ヴィヴィは微かに金の頭を捻る。
レンタカー?
エディンバラからここ、オックスフォードまで?