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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章   

「ヴィクトリア。気持ちいいんだね?」

 よせばいいのに、わざわざ言葉にしてくる兄に、

 妹は渾身の力を振り絞り、拘束された両腕を兄の掌へと押し付け、これ以上揉まれぬようにと抵抗した。

「ん? ああ、もっと強く可愛がって欲しかった?」

 解っていて、敢えて言葉でも虐めてくる匠海に、

「ちがっ や……っ ん、あ……、やぁ~~っ」

 言葉では違うと否定しながらも、きゅうと乳房を絞られると、抵抗していた筈の両腕が緩んでしまった。

「キス、していい?」

 何度目か分からぬ兄の問いに、ヴィヴィは無意識に零れる喘ぎを堪える為にも、

 親指の付け根を唇に押し当てて、必死に抵抗した。

「駄目か……。じゃあ、こっちが先だ」

 こっちってどっち?

 そう思った瞬間、

「ぅ……っ」

 ちくんと感じた痛みに、白い眉間が微かに寄る。

 少し頭を起こして確認すれば、拘束された両腕の下、

 乳房を掌で覆ったままの兄が、その間に口付けていて。
 
 何度も繰り返されるその痛いだけの行為に、

 手の甲に押し当てた唇の隙間から、苦痛の声が漏れていた。

「くそ、こんなところにまで……」

 そう一人ごちる兄を不思議に思い、再度 視線を向ければ、

 忌々しそうに蔑む瞳を湛えた匠海が、そこにはいて。

 自分の肌に残る、幾つかの鬱血の痕。

 その上から痛みを感じる強さで、所有印を刻み直していく兄の姿は、

 他の男に穢されて傷を負った今のヴィヴィには、見るに堪えなかった。

「……――っ」

 望まぬ形で強姦未遂にあった女に、こんな酷い仕打ちをする男がいるだろうか――?

 ヴィヴィの常識を総動員させて考えてみても、

 自分を本当に愛してくれる男ならば、

 時間を掛けて、優しい言葉で慰め。 
 
 「危険なんてもう無い」と安心出来るまで、抱き締めてくれて。

 そして、何十日何百日と経った頃、

 「自分の愛する人となら大丈夫」と気付いた女性を、

 男性は優しく丁寧に愛してくれる。
 
 ――それがヴィヴィが想う “誠意のある男の対応” だ。

 だが、現実には、

 自分の愛した男は、襲われた翌日に “全く同じ手法” で自分を貶めようとしてくるではないか。

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