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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第4章     



『ただいま、瞳子』

『おかえりなさい、匠海さん。ふふ、匠斗はすっかり おねんね したわ』

『そうか、どれ……。ああ、可愛いなぁ、俺に似て』

『あら、 “私に似て” よ?』

『そうだな。綺麗な瞳は、瞳子にそっくりだ』

『お鼻は、きっと匠海さんね?』

『唇の形は……、ああ、やぱり、お前と同――』



 身体を洗い終わったスポンジをぽいと、床に放ったヴィヴィ。
 
 まるで見て来たかのように、無粋な妄想をする出来損ないの頭を冷やすべく、冷たいシャワーを顔から浴びる。

「ああ、そう言えば。匠斗、来るのよね~っ グランマと一緒に おねんね してくれるかしら♡」

 初孫のお泊りを想い出し、うっとりする母に、

「圧死させそうだから、やめたほうがいいんじゃ?」

 ヴィヴィは正論と言う名の、可愛くない見解を投げ掛ける。

「だ~れ~がぁ~、寝相 悪いってぇ~~? あ゛ぁ~~ん!?」

 本当に、何で時々ガラが悪くなるのか。

 眉間に青筋を浮かべるジュリアンに、ヴィヴィは「すみませんすみません」と平謝りし。

「匠斗……、唇……、誰に似たんだろうね?」

 記憶の中の自分の甥を思い出す。

 一番鮮明に残っているのは、

 あの子の唇の形――。

「くちびる~~? そんなの、もちろん、あ・た・し!」

(だから、血、繋がってないでしょうが……)

 嬉々として己を指さすジュリアンに、ヴィヴィの薄い唇の口角が下がる。



 少しハの字を描く眉。

 奥二重で、真ん丸い焦茶色の瞳。

 ちっちゃな鼻は、赤ちゃんだからぺったんこで、

 唇の形は――



「………………」

 考えたくなど無いのに。

 夜来香の強烈な香りに侵された脳は、

 誰かに乗っ取られたかのように、

 強引に要らぬ思考を貫いていく。



 匠海の唇は大きくて、表情が判り易くて素敵で。

 瞳子の唇は少し大きめで、義姉らしく優雅で。 

 だから、

 その子供の匠斗の唇は、

 少しぽってりした、大き目の唇――だった。



 確実に、自分とは違う遺伝子を持った、兄の子供。



 だから、

 匠斗は、匠海のもので。

 匠斗は、瞳子のもので。

 瞳子は、匠海のもので。



 だから、
 
 匠海は “義姉のもの” 


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