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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第4章     

「冗談よお。そうねえ、長男が結婚して、孫が生まれて……。そうやってどんどん、自分の家族が増えて、喜びや楽しみも倍増して――」

 幸せそうな微笑みを浮かべながら言葉を重ねるジュリアンは、そこで言葉を区切り。

「まあ、たまに辛い事もあるだろうけれども……、みんな一緒だったら、協力して乗り越えられるでしょ?」

 そう続けた母の顔は、父と結婚してから、ただ幸せだけだった訳では無いと物語っていた。

「………………」

「なんで、そこで黙るかなあ?」

 バスタブに頬杖を付き、半眼で見上げてくるジュリアンに、

「いや……。マムにしては、珍しくまともな返事だったから……って、ぶはっ!?」

 馬鹿正直に答えた娘に、母はバスタブの湯を大量にぶっかけたのだった。

「あはは。さ~~て、双子ちゃんは一体、どんな相手と結婚するのかしらねえ? まあ21歳だから、だいぶ先だろうけど?」

 能天気に呟き、鼻歌で微妙なメロディーを奏で始めたジュリアン。

 身体を洗い始めたヴィヴィには、その鼻歌は徐々に届かなくなっていた。



 自分は、誰とも付き合わない。

 自分は、結婚しない。

 自分は、恋人にも、妻にも、母にもならない。
 
 だから、

 自分は、永遠に誰ものでもない。



 匠海は、自分のかつての恋人だった。

 匠海は、自分に永遠の愛を誓った。

 それは、確か――。

 それは、紛れもない真実。



 夜来香の花は、1つ1つは小さい。

 なのに、
 
 その独特で深い馨りが、

 自分の濡れた表層のみならず、

 毛穴や鼻腔から、体内へと、

 じくじくと滲み、

 くどくどと沁み、

 一刻さえも、

 己の立場を違わぬようにと、

 弁えるようにと、念押しし。

 己の犯した罪を忘れぬようにと、

 纏わり付き、

 離してはくれない。



 匠海は、自分のかつての恋人だった。

 けれど、

 匠海は、結婚した。

 だから、

 だから、

 匠海は、夫となった。

 匠海は、父となった。

 だから――、


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