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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第4章
8月7日(月)――日本滞在2日目。
6時前に松濤のリンクに到着したヴィヴィは、更衣室で早朝練習の準備を整えていた。
イヤホンから流れてくるのは、今季のSP使用曲。
タンゴの音色と振付をシンクロさせながら、鏡の前で長い金の髪をきゅっと縛る。
小さな顔に浮かぶのは、そこはかとない疲労感。
昨夜、父の宣言通り、親子3人で川の字になって寝た。
もちろん、ヴィヴィが真ん中で。
その結果はご覧の通り――
ヴィヴィは本日、大いに寝不足だった。
ジュリアンの寝言と、グレコリーの抱き着き癖のせいで。
(たぶん、私を元気付けようと、してくれてるんだろうけど。
如何せん、いっつもやり方が間違っている気がするのは、気のせいかな……?)
「ふわわ……」
手をかざしもせず、大きなあくびをした途端、
「あ、ヴィヴィだ。おはよ~~っ」
ペアの下城 舞が、ドアを押し開けて入って来た姿が、向かっていた鏡に写りこんだ。
「おはよう~、ふわわ……」
鏡越しに挨拶しながら、今度は手をかざしてあくびを繰り返す。
「眠そうだね? 昨日、遅かったの?」
テキパキ着替えながら問うてくる舞に、昨夜の出来事をかいつまんで話せば、
「あははっ それはご愁傷様としか、掛ける言葉が無い~っ」
くりんくりんの瞳を細めながら、笑い飛ばされた。
「「今夜も」とか言われたら、死んじゃう……☠」
がっくり肩を落とすヴィヴィに、
「それはそうと、ヴィヴィ、どうかしたの?」
着替え終えた舞が、ヴィヴィの傍に寄ってきて。
「え?」
「なんか、顔、真っ青だよ?」
元リンクメイトの言葉に、もう一度鏡に向き直れば、確かに紙のように白かった。
手を伸ばして来た舞が、「熱は無いみたいだけど」と、ヴィヴィの額に掌を当ててきて。
その際、ふわりと香った爽やかな香りに、細く高い鼻がピクリと反応した。
「……舞ちゃん、香水……付けてる?」
「え? あ、うん、ほんのちょっとだけね~」
おでこから手を離した舞が、何故か白いほっぺをふにっと抓んでいた。