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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第1章
「リンクの上で、彼女の笑顔を見られる事も無く……。その姿は、本当に “冬眠” しているようでした。まあ、それでも最後の世界選手権で優勝してみせた――、ヴィクトリア選手の葛藤と信念を、感じさせてくれた1年でもありました」
鈴木アナのしっかりとした口調に、荒河の声も明るくなる。
「そうですね。 “冬眠” なんて、とんでもない! 昨シーズン、様々な事に新たに取り組んできた結果、今のヴィクトリア選手には、3回転アクセルは勿論、沢山の強みを得た充実したシーズンとなりました。それをまた、10月から始まる新たなシーズンで、生かしてくれると思います」
1曲の中に起承転結を感じさせる、ドラマティックなピアノの調べ。
一晩だけのかりそめの情事でもいい。
そう愛を乞うヴィヴィに、やがてクリスも心を動かされ。
命の炎を燃やし尽くさんばかりのスピンで会場中を魅了したヴィヴィに、差し伸べられた片腕。
それに縋り付く妹を熱く抱擁した兄は、互いに躰を絡ませ合い。
やがて――、
劇的な終結部。
黒ベストの背中にしな垂れかかったヴィヴィに、兄は背を向けたまま左手を差し出す。
その大きな掌の中に救いを求めて顔を埋めたヴィヴィの、片脚がゆったりと持ち上がり。
ピアノの和音が響き渡る、静かなリンクの中央。
背を向けたまま、ヴィヴィの頭と片脚を支えたクリスと共に、そのプログラムは終結を迎えた。
DREAMS ON ICE2023 最終日、7月9日(日)。
最後の昼公演まで務め上げたヴィヴィは仲間達と別れ、皇居傍に位置する英国大使館を訪れた。
もちろん、大使を父に持つカレンを訪ねる為に。
「きゃ~~っ 久しぶり、カレン!!」
親友の姿を認めるや否や、荷物を放り出して歓喜するヴィヴィに対し、
マドカ同様、ヴィヴィの笑顔を目にしたカレンも、感極まって号泣してしまい――。
物心付いた頃からずっと一緒にいた竹馬の友に、ヴィヴィは何度も何度も、
「心配掛けて、ごめんね……? もう、大丈夫」
自分よりも10cm背の高いカレンの背中を撫でながら、そう謝ったのだった