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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第6章
「ヴィ、ヴィヴィ、怖いぃ~~っ」
「め、目がイっちゃってんぞ!?」
リンクメイト達が寄越す “イタイ子を見やる視線” も何のその。
そうやって、周りを怯えさせながら、自分を盛り上げたヴィヴィは、
「音、お願いしま~~すっ」
と発しながら、FS『カルミナ・ブラーナ』の演技後半のスタート位置へと駆けて行く。
「はいよ~」
もうヴィヴィの奇行に慣れっこな、柿田トレーナーの返事が届いたと思えば、
広いリンクに響き始めたのは、
『カルミナ・ブラーナ』の全25曲の大作中、冒頭とトリを飾るに相応しい、神々しく最も壮大な合唱曲。
“O Fortuna ――おお、運命の女神よ”
『おお 運命の女神
お前は移ろう月の如き 絶えず姿を変え』
フルオーケストラと混声・少年合唱団による、印象的な導入部。
ラテン語で盛大に謳い上げられる曲に乗せ、
「てぃっ」
何故か変な掛け声を上げたヴィヴィは、勢い良く、
演技後半1本目となる 2回転アクセル + 3回転ループ のコンビネーションを飛び切る。
『満ち欠けを繰り返す
情け容赦無い 忌むべき世界』
作曲者カール・オルフが得意とする、オスティナート(執拗な反復)により、低音のリズムで支配されていく中、
音量を落とした曲に乗せ、3回転ルッツを的確なエッジで飛び分ける。
「うっしゃっ」
(良い感じ~、いい感じぃ~~っ)
『気まぐれに喜びを与え 人の心を弄び
貧乏も権力も
氷のように 溶かしてしまう』
“運命の女神” に対する、人々の嘆きの歌が淡々と重ねられる中、
その歌詞に引きずられまいと踏ん張るヴィヴィは、3連続ジャンプの1stを踏み切り。
「ふんっ」
3回転フリップ + 2回転ループ + 2回転ループ を力強く着氷した。
『おぞましく空虚な運命よ
お前は回転する車輪のように
悪意に満ち 幸福を無にする』
演技後半の最後のジャンプとなる、3回転サルコウを慎重に決めれば、
「とぉっ!」
“運命の女神” とは全く結びつかぬ、般若の如き形相で、ステップシークエンスへと突入する。