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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第6章
『陰に隠れて私を苦しめ
私は丸裸で お前の術中に落ちる』
やっと しっくりき始めた、5連続ディフィカルト・ターンを2発ぶっ放し。
身体の使い方は至極大胆に、けれど、足元のエッジワークだけは絶対にぶれる事は無い。
『運命は健やかさも力強さも奪い
私を渇望と失望の虜にする』
大音量にボリュームを上げ、テンポがますます加速していく終結部。
コレオグラフィック・シークエンスで、己の強みと美点を存分に披露し、
残るは、足替えコンビネーションスピン。
『今こそ時をおかず 弦をかき鳴らせ!
運命は強者をも打倒するのだから
皆の者 我と共に嘆こう――!』
鬼気迫る、演技後半の2分間を滑りきったヴィヴィ。
高らかなオーケストラと合唱の響きに合わせ、気持ち良さ気にフィニッシュポーズを取り。
広いリンクのど真ん中。
「YE~~Sっ!!」
腹の前で両拳を握り締め、何故か一人だけテンションMAXに雄叫びを上げれば。
「はい、ヴィヴィ~。ふざけてないで、もう一回、頭からやり直し~~」
ショーンコーチは、涼しい声でそう命令を寄越した。
「ぅえ~~?」
自分では中々、強い “運命の女神” 像が描けたと思ったのに。
不満そうに唇を尖らせ、ぶーたれる生徒に、
「強くて迫力があれば良いってもんじゃない。ほれほれ、とっととスタート位置に着きなされ」
齢75歳のお爺ちゃん先生は、まるで猫を追いやるかのように、皺の浮き出た手の甲をひらひらさせる。
「ふわ~~~い」
タッグを組んで2シーズン目へと突入した、ショーン・ニックス と ヴィヴィ。
どこからどう見ても、飄々と食えないお爺ちゃん と 天然炸裂・孫娘 の子弟は、
これでも中々、良い感じの関係性が築けつつあった。
結局、あれやこれやと、注意と指摘と手直しが入り。
「 “運命の女神” ……かぁ……」
午前中のレッスンを終えたヴィヴィは「う゛~~ん」と唸り声を上げながら、ロッカールームへと引き上げて行くのであった。
(てか “ヴィクトリア” だって、ローマの “勝利の女神” ……なんだけどね~)