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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第7章
「何って。お前に会いに」
確かに。
匠海の説明通りなら、ヴィヴィが呼び出して、それに匠海が 応えて会いに来たのだろうが。
「だって。メールしても、言付けしても返事が無いし。顔を見て声を聴いて、元気な姿を確かめたかった」
そう言葉を継いだ兄に、妹は急に興味を削がれた様に瞳を逸らせた。
「ふうん。引き留めて悪かった。じゃあね」
裾の長いワンピを手に、バスルームに消えようとしたが、
「ヴィヴィ」
そう呼び止められ。
「……何……?」
振り返る事も無く、声だけで返事する。
「俺は11時のフライトで、ロンドンへ戻る」
「……あっそ……」
という事は、ロンドン経由で、19時過ぎの羽田行に乗るのだろう。
(とっとと日本に帰って、妻でも抱いてなよ……)
口汚く脳内で毒を吐き、今度こそバスルームの扉を閉めようとしたが、
「今夜はロンドン市内に、宿を取ってある」
続けられた匠海の言葉に、
「……へえ……?」
背を向けたまま、気の無い相槌を返すヴィヴィ。
けれど、
「5日間 頑張った妹を、たっぷり癒してやりたい。泊まってくれるね?」
「………………」
思わず振り返ってしまった視線の先、柔らかな微笑みを湛える匠海と目が合い。
(なんでやねん……)
ヴィヴィは思わず、関西弁で突っ込んでしまった。
「エステに美食に美酒。用意して待ってるよ」
目の前に美味しそうな餌をチラつかせ、笑う兄に、
「……行きません」
何故か敬語で返してしまった妹。
「でも、待ってる」
端正な微笑みの中に滲む、兄の自信を読み取り、
「行かないったら!」
両拳を握り締めたヴィヴィは、小声ながらも必死で抵抗する。
「はいはい。じゃあな」
くすりと笑い声1つ置いて、部屋を後にした その後ろ姿が見えなくなっても、
ヴィヴィはじっと、兄が出て行った扉を睨み付けていた。
「………………」
行く訳 無いでしょう?
私ずっと 必死に、
お兄ちゃんを無視し続けてきたんだから。