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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第7章
「 “篠宮 匠海と永遠にラブラブの相” が出ている」
下らない見立てを寄越した匠海。
「~~~っっ そんな手相はありませんっ!」
プンスカして、左手を引こうとしたが、
「綺麗な手だ。食べてしまいたい」
全く離す気が無いらしい兄は、恐ろしい事を言い出す始末。
「や、やめて下さいっ」
(手羽先にでもする気? ああ、考えたら気持ち悪くなった……orz)
「今度、マニキュア塗らせてくれ」
「は?」
「ヴィクトリアの白くて細い指には、薄ピンクかな? きっと可愛いぞ」
「……兄にマニキュアなんか塗らせる妹が、どこにいるっての?」
「ここに」
「………………」
その後も、無意味な応酬を繰り返し。
先程までの安らかな気持ちが、ぶっ飛んでしまったヴィヴィ。
(何だかな……。もう、帰ろうかな……)
当初の目的の、エステ・美食・美酒――
そのどれも味わっていないけれど。
時刻は16:40。
6日間のTWIで疲れたヴィヴィは、オックスフォードに戻る旨を口にしようとした。
その時。
「幸せだ……。ヴィクトリアとずっと、こうして居られるなんて……」
自分を覗き込みながら、そんな事を囁いてきた兄に、
妹は文字通り きょとんとした。
「……しあわせ……?」
「ああ」
「……私といると、幸せ……なの?」
「そうだよ」
柔らかな相槌を繰り返しながら、包み込んだ掌に力を込めてくる男の、
数秒前の軽薄な物言いを、心の中で繰り返してみる。
幸せ。
しあわせ。
私とこうしていられる事が、
お兄ちゃんの “幸せ” ――?
長い睫毛を湛えた目蓋で、ぱちぱちと瞬いてみても、
切れ長の瞳を細め うっとりと見つめてくる匠海の姿、も、
繋がれたままの己の手、も、
自分の視界から、消える事は無くて――
「妻子がいるだけじゃ、満足出来ないの?」
隣の兄を真っ直ぐ見つめ、直球で問えば。
「俺の幸せはヴィクトリアにある。昔、そう言っただろう?」
返事を寄越した兄はそれでも、一瞬も瞳を揺らす事無く、一直線に妹を見返していた。