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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第7章      

「くっくっくっ」

 黒いスウェード張りのソファー。

 隣に腰掛けた兄の忍び笑いに、

「……~~っ 変態っ」

 思わずそう、憎まれ口を叩いた妹。

「ごめん。もう変なことしないから」

 微笑みを浮かべた端正な顔の中、唇の端がひくひくとしているのを見つけたヴィヴィは、

「…………本当にぃ?」

 心底疑わし気に、隣の兄を睨み上げていた。

「ああ、本当。約束する」

「………………」

 しぶしぶ左手を差し出す妹に、兄は楽しくて仕方なさそうだった。

(……だって、気持ち良いんだもん……)

 ちっちゃな頃から、兄に撫でて貰うのが好きだった。

 抱っこして貰うのも、おんぶして貰うのも。

 日常的に両親に甘えられない双子にとって、6歳上の匠海は、

 甘えられる肉親という、唯一の対象だったから――

 だから、気持ち良い。

 こうして、

 兄の大きな掌に、すっぽりと包まれているだけで。

 その暖かさを、こんなにも傍で感じられるだけで。

 リビングスペースに灯された、10本のキャンドルに瞳を細めながら、

 兄と妹はただ、静かに互いの手を繋いでいた。
 
 それは、とても静かで。

 けれど、不思議と安らぎを与えてくれた。



 この男は、

 私を裏切った元恋人、

 なのに――



 自嘲気味に、細い鼻から息を吐いたのに気付いたのか。

「ヴィクトリア。手相を見てあげようね」

 繋いでいた左手を持ち上げ、笑う匠海。

「み、見なくていい」

 と言うか それ以前に、絶対兄に手相占いの知識がある筈も無く。

 けれど、

「おや……」

 白い掌を見詰めながら、そう意外そうに呟かれれば、

「な、なに……?」

 騙されやすいヴィヴィは、兄の言葉に易々と引っ掛かってしまう。



 もしかして “早死の相” 等が出ているのだろうか?

 それは困る。

 非常に困る。

 少なくとも後17ヶ月――次の五輪が終わるまでは、

 私は死んでも死にきれない。



 ヴィヴィは本当に、そう心配したのに、

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