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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第8章
『ああ、このまま会社へ行くよ』
9.7インチの液晶に映し出された匠海は、シャツにネクタイ姿で。
航空会社が手配したらしいリムジンの中、フランス語で微笑みかけてくる。
「ちゃんと……眠れた?」
本日――9月6日(水)の11:30に、ロンドンを発ち。
約12時間のフライトを経て、日本時間の9月7日(木)7:20に羽田に到着した匠海。
いくらフルフラットシートとはいえ、熟睡 出来たのかと心配するヴィヴィに、
『ぐっすり。ああ、そういえば』
「え?」
『夢にお前が出てきた』
にやあと悪そうな顔で嗤う匠海。
「……~~っ」
どうせ、兄の夢なんて、禄でもないのは解っている。
というか、運転手さんが怖がるから、そんな顔で嗤っちゃ駄目。
“美形の悪そうな微笑” なんて、本当に「魔王か!?」と突っ込みたくなるほど、見慣れない人には恐ろしいから。
胸の中で窘める妹に対し、
『それが……ふっ』
至極 愉快そうに想い出し笑いを零す兄。
「な、何……?」
『うん。いや、水着姿のヴィクトリアが、猫耳 付けてて「どうしたんだ?」って尋ねたら「お兄ちゃんを誘惑してるにゃん♡」って可愛過ぎるお返事が――』
フランス語でそうのたまった相手に、間髪入れずに突っ込む。
「そんな事する訳無いでしょバカっ!!」
(猫耳っ? なんで、猫耳!? 意味分かんないっ)
『ははっ! って言うと思って、網膜と海馬に “猫耳姿” を焼き付けておいた。それにしても、白ネコ……エロかったな~』
きりっとしたネクタイ姿のくせに、締り無く頬を緩める匠海。
「消してっ 今すぐ消してっ!」
東大を首席で卒業し、オックスフォードでMBA取ったご立派な脳味噌に、そんな如何わしい(ありもしない)記憶を残すべきじゃない。
iPadに噛り付かんばかりのヴィヴィにも、
『い~や~だ~』
「~~~っ」
神経を逆撫でする軽薄な声音でニヤつく変態――もとい、匠海。
―――――
※海馬:短期記憶を保管する脳の部位。長期記憶だと大脳皮質~