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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第8章
『愛してる、ヴィクトリア……。好きだ、好きなんだっ』
昨夜の匠海の鬼気迫った告白が、今のヴィヴィにもたらすのは、幸福 と 自己否定。
自分の欲望の為に、実の兄を道ずれにした妹を、
匠海は “本当に愛している” のだろうか――?
唯一の光源である、ベッドサイドのランプを落とし、ベッドに逃げる様に潜り込む。
目蓋の裏に残る、画面越しの楽しげな兄の笑顔に、そう問い掛けてみても、
当たり前だが明確な答えは、帰ってなど来なかったのだ。
翌日、10時までの早朝レッスンを終えた双子は、屋敷へ戻り。
ヴィヴィはその足で、10月から世話になるセント・エドモンド・ホールへと徒歩で向かった。
5分で辿り着いたカレッジオフィスで所用を済ませた後、天気が良いので中庭で日向ぼっこでもしようかと、外に出れば、
併設したチャペルから出て来た、正装した人々と出くわした。
「あ……」
すぐに事情を察知したヴィヴィは、邪魔にならぬ様、中庭の美しい芝生の端を歩き、図書館へと続く回廊へと逃れた。
(どおりで、今日はいつもより讃美歌が賑やかだった……)
17世紀に建てられたカレッジ・チャペルでは、当カレッジのOB・OGが結婚式を挙げる風習があった。
ちょうど今、大学は休暇中なので、挙式が多いのかもしれない。
先程、ちらりと視界の端に入った、白いウェディングドレスの女性。
それはほんの一瞬だったが、彼女の浮かべた “この世の幸せ全てを独り占めした笑顔” に、
小さな頭の中に過ぎったのは、義姉のハリウッド女優さながらの完璧な花嫁姿だった。
「ハイ、ヴィヴィ。今日も驚異の速読で、新刊読み切っちゃうのかしら?」
入り口で、顔見知りの司書の女性にからかわれ、
「ふふ。今日は2・3冊借りてこうかな?」
ふわりと微笑んだヴィヴィは、ステンドグラスの美しい図書館の奥へと足を踏み入れる。