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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第8章
12世紀の教会に造られた図書館は、まるで中世の世界にタイムスリップした気持ちになれる、ヴィヴィにとってはアガる場所。
適当な書籍を見繕い、数人の同窓生に手を挙げて挨拶すると、目立たない奥の席に腰を下ろす。
指に馴染む紙質に気を良くし、ぱらぱらと高速でページを繰るも、
やはり、脳にこびり付いた女性の姿は、簡単には消えてくれない。
「………………」
昨日と今日と。
スケート以外の時間は、どうしても匠海との事ばかりを考えてしまうヴィヴィは、
これ以上を読み進める事を早々に放棄し、書籍の傍に両肘を突いた。
自分は、兄夫婦の結婚式の記憶が、所々飛んでいる。
妹として元恋人として、披露宴ではきちんと、その役割を果たそうとしたが、
ホテルの教会で行われた式については、だいぶ曖昧だった。
けれど、
それでも、覚えていることはある。
木の温もりが落ち着いた印象を与える、エメラルドグリーンのクリスタルレリーフが映えるチャペル。
9頭身の身を包んだ、漆黒のロングタキシード。
花嫁と父親を迎えるバージンロードに、オルガンの厳かな響き。
司祭により粛々と進められる式の中、兄と義姉は結婚の制約を交わし。
そして結婚誓約書を手に取った2人は “誓いの言葉” を読み上げた。
「「私達は夫婦として、
順境にあっても、逆境にあっても、
病気のときも、健康のときも、
生涯、互いに
愛と忠実を尽くすことを
誓います」」
なのに――
婚姻から1年半も経たぬ内に、匠海は不倫に手を染めた。
「結婚って、一体何なの?」と、論点のずれた疑問を持ち。
しかし、すぐにそれを頭の隅にやる。
そうじゃない。
自分が今考えねばならぬ事は、そんな事じゃない。
気持ちを切り替える為に、静かに数度 深呼吸をし、
デスクに乗せていた両腕に、俯いたまま頬杖を突く。
匠海は妹と堕ちる道を “自身で選んだ”。
けれど、瞳子は?
匠斗は――?