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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第8章
10月1日(日)。
前日の24時前に屋敷に戻った双子は、5時に起床し。
常と同じく6:00~10:00の間、同行してくれている女性のサブコーチと、松濤のリンクで朝練を行った。
(今更感があるが)双子のサブコーチは、元・英国女子シングルスケーターのシエナ・マッコーケル(37)。
現役時代はイギリス選手権を8連覇(通算11勝)し、ベルギーの元・男子シングル選手と結婚している、英国で絶大な人気を誇る人物だ。
「なあに? 落ち着き無いわねえ?」
そのシエナ・サブコーチに声を掛けられたヴィヴィは、パーカーに包まれた細い肩を、思わずぎくりと跳ね上げた。
ストレッチを終えて手早くシャワーを浴び、裏口付近で双子の兄の支度を待っていたのだが。
その様子は、そわそわと浮き足立っている状況が、もろバレだったらしい。
「ははぁ~ん? NHK杯まで、もう5日だから? 大丈夫よぉ。3日後にはショーンコーチもいらっしゃるし、状態もとても良いでしょ?」
「う……はい」
確かにGPシリーズ初戦を控え、気合が漲っているのもあるが。
スウェット地のパーカーワンピの紐を、指で玩び誤魔化すヴィヴィに、シエナコーチはにっこり笑う。
「帰ってゆっくり休みなさい。また明日ね」
「はい。お疲れ様でした」
軽く手を挙げて、スタッフルームに消えたサブコーチを見届け。
ヴィヴィは視線を、元にあった場所へと戻す。
ガラス張りの扉の先、サンボニー(製氷車)が一般営業に向けて、リンクを整えていた。
けれど、金色の頭の中にあったのは、それとは全く関係の無い事。
『Title:着いたよ
Letter:
匠斗が双子に会いたがって
朝からムズがるから、もう来ちゃったよ
俺も早く会いたい
待ってるな』
レッスンを終え、更衣室に戻り気付いた、匠海からのメール。
今日中に、松濤の屋敷に来てくれるのは知っていたが、まさかそんなに早く来てくれるとは思いもせず。