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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第8章
「~~~っ」
リノリウムの床の上。
鮮やかなピンクのスニーカーが、きゅきゅっと小刻みに軽い音を立てる。
その様子はまるで “居ても立っても居られない” と言いたげで。
(クリス、早く来ないかな~?)
トクトクと高鳴る鼓動に急き立てられ、
ヴィヴィは一緒に戻る双子の片割れを、今か今かと待ち侘びていた。
その20分後。
クリスの運転で屋敷に戻ったヴィヴィは、双子の兄に続き、上の兄のハグを受けていた。
「ヴィヴィも、おかえり。約1ヶ月ぶりか~、元気にしてたか?」
あくまで “篠宮家の長兄” として振る舞う匠海に比べ、
広い胸に抱きすくめられたヴィヴィはというと、懐かしい兄だけの香りを感じた途端、涙ちょちょ切れそうになっていた。
(うえ゛ぇ……っ お兄ちゃんだぁっ 本物のお兄ちゃんだよぉ~~っ (゚´Д`゚))
色気も糞も無い泣き声を、胸の内で上げながらも。
薄い唇から零れたのは、
「ただいま。……ていうか、ハグ長い」
そんな全く可愛げの無い、ウンザリした声音だった。
「なにおう? 久しぶりの兄妹の再会に、そんなツレナイ事言う冷たい妹には、こうしてやる~」
細い身体に巻き付けた両腕に力を籠め、ぎゅうぎゅう抱き締めて来る兄に、妹はというと、
「ふぎゃっ!? お、お兄ちゃんのバカっ 離してぇ~~っ」
きゃあきゃあ騒がしく、広い玄関ホールで喚くのみ。
そしてその隣では、1歳1ヶ月の甥っ子を、ひょいと抱き上げたクリスが、
「匠斗、元気だった……? 君が兄さんに、性格が似ない事を、僕は日々、願っているよ……」
そんな結構 酷いボヤキを、零していた。
「もうっ 私、着替えてくるから!」
ようやく匠海の手厚い抱擁から抜け出したヴィヴィは、ぜいぜい言いながら、3階へ続く階段を昇り始め。
「はいはい。でも、二人とも、とっとと降りて来るんだよ?」
妹に続き、着替えに行こうとする弟から息子を預かった匠海は、笑いを噛み殺しながら双子を見送ったのだった。