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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第8章
♪ラレファソ ソ#ラソファ#ファ ラドレ~♪
甥が好きだという TAKE FIVE を、試しに弾いてみれば。
ぴょこんと小さな頭を上げた匠斗が、白と黒の鍵盤を弾く細い指先に釘付けになり。
それで気が逸れたらしく、やっと手を離してくれた髪の毛。
その隙に、隣のクリスがひょいと匠斗を抱き上げ、己の太ももの上に座り直させる。
両手が自由になったので、これ幸いと伴奏を加えて更に弾いてみれば、
短い両腕をふりふりしながら、リズムを取り始めた(らしい)匠斗は、確かに滅茶苦茶 愛らしかった。
「凄い……。最後の方、ちゃんとリズムに合わせて、手を振ってたね……」
若干 叔父バカっぽく、驚きの声を上げるクリスにも、匠斗は「び」と声を上げる。
「匠斗……。僕は “クリス叔父ちゃん” だよ。ク・リ・ス……」
いくら双子とはいえ、今は成人した男女。
一卵性双生児の如きそっくり加減と称されようが、クリスからしたら妹と混同されるのは、複雑な心境らしかった。
「ぷ……っ」
むきになるクリスが面白くて、ケタケタ笑っていると。
「あれだね……?」
「ん?」
双子の兄の呟きに、妹は こてと金の頭を倒して見上げる。
「僕と、ヴィヴィと、匠斗って……」
「うん?」
「カツオと、ワカメと、タラちゃん……」
「ぶはっ!」
クリスのまさかの言葉に、ヴィヴィは思わず吹き出してしまった。
というのも、
「ク、クリスが、カツオ……っ」
日本の “いたずらっ子” の象徴とも言うべき、磯野 カツオ。
(「ひどいよ、姉さん~っ」とか、クリスが言う訳? あははっ 絶対ありえないっ!)
ヴィヴィがカツオならまだしも、あまりにもなミスキャストに、笑いが止まらず。
「兄さんが、サザエさん……」
そのクリスの駄目押しに、
「あははっ」
ヴィヴィは灰色の瞳に涙を滲ませ、しきりに笑い倒した。
そんな叔母を、不思議そうに見上げてくる甥に気付き。
ヴィヴィはまた、鍵盤に両手を乗せる。