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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第8章    

 ヴィヴィは何とも言えない表情を浮かべ、甥の背中をぽんぽん撫でる。

「……君は、いつまで、私の髪を掴んでるの?」

「まんま」

「んっと、だから……。食べ物じゃ無いのよ? これは “髪” 。髪の毛」

 そう言葉を訂正してやるも、まだ1歳になりたての幼児に、理解出来る筈も無く。

「あ~う~」

 甘えた声音を上げ、くっついてくる甥っ子に、ヴィヴィは途方に暮れてしまった。

「ヴィヴィ、預かろうか……?」

 流石に助け船を出してくれたのは、いつの間にか目を覚ましていたクリス。

「……大丈夫。ありがとう」

 自分の髪を握り締めたままの甥を、預ける事もままならず。

 諦めたヴィヴィは、その丸っこい生き物を抱きかかえ、おもむろに腰を上げた。

「防音室、行ってくる。もしかしたら、楽器で “髪への興味” 逸れるかも」

 そう言い残したヴィヴィは、皆がいるリビングを後にし、長い廊下を突き進んだ。

「び……」

 彼の母親に比べ、自分の薄っぺらい胸では “抱かれ心地” は格段に劣るだろうに。

 抱っこされた匠斗は、とても落ち着いていて、全てをヴィヴィへと委ねていた。

(…………? やっぱり、人懐っこい子、なのかな……?)

 初対面の時の “人見知り具合” を知っているヴィヴィは、内心首を捻るが。

 防音室の前へと辿り着き、匠斗を抱きかかえ直す。

 そうして片手で、独特な重い扉を開こうとするも、

「お……重い」

 10kgを超えた体重に、思わず零れた弱音。

 そんなヴィヴィを見兼ねたのか。

 重い扉を開けんとする細い手に代わり、後ろから伸びて来た大きな手が、代わりに分厚い扉を押し開けた。

「クリス……。ありがと」

 ぱちぱちと灰色の瞳を瞬かせ、驚きながら感謝したヴィヴィに、

「どういたしまして……」

 頷いたクリスは、続いて防音室に入って来た。

 ピアノの長椅子に腰を降ろしたヴィヴィは、匠斗を片手で支えながら、グランドピアノの蓋を開け。

 その隣に浅く腰掛けた双子の兄に、フェルトを取り除いて貰うと、おもむろに片手で奏で始めた。

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