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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第8章    



 今の私は

 “音の届かぬ深海魚” 

 もしくは 

 “日本語と英語分かんない外国人”




 甥っ子と戯れた(?)、その日の夜。

 ヴィヴィは篠宮邸のダイニングルームで、両親・兄家族・クリス と、ディナーの席を囲んでいた。

 未だ「美人」よりも「美少女」と愛でられる事の多い小さな顔には、自然な微笑みが浮かぶものの、

 その仮面の下に浮かんでいたのは、(-_-)←こんな、菩薩の如きものだった。

「日曜日なのに、大変ねえ?」

 ジュリアンの問いに、

「ふふ。やはりウェディングは、土日に集中しますからね」

 流暢な英語で、兄嫁――瞳子は微笑み返す。

「平日も忙しくしてるって聞いたよ? 草月流のほう?」

 草月流の師範代 かつ 各所で引っ張りだこの新進気鋭のフラワーアーティスト。
 
 そんな息子の嫁が、多忙過ぎて身体を壊さないか、心配なのだろう。

 本日も夕刻まで仕事をしていたという瞳子に、グレコリーは気遣いながら尋ねていた。

「はい。なので週に1回は、必ず休みを入れるようにしてますよ。でないと、匠斗の成長を見逃しちゃいますからね?」

 隣の幼児用椅子に腰掛け、右手にスプーンを握りながらも、手掴みでハンバーグと格闘している甥っこ。

 義姉はその汚れた口元を、愛おしそうに拭っていた。

「まんま……」

「そうねぇ、美味しいねぇ?」

「あ~う~」

 紅葉の掌にべっとり着いたソースをも、心底 拭いたい衝動に駆られたが、

 ヴィヴィは自分のスカートにかけているナプキンを握り、見ないふりを決め込む。

(だから “日本語と英語分かんない外国人” に成りきれってば、私……(-_-))

 愛人の自分が、不倫相手の家族と食卓を囲むだけでも異常なのに。

 その上、その不倫相手は実の兄――だ。

 これ以上の修羅場(もとい、恥の上塗り)があるのならば、是非教えて頂きたいものである。 

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