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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第8章
「匠海さんが匠斗を沢山構ってくれるので、ちょっとずつ人見知りも無くなって」
「そうだなあ。最近、初対面の人間にも、動じなくなったな?」
「きっと、匠海さんに似たんだわ。私が幼児の頃って、凄く引っ込み思案だったらしいの」
「そうだったのか? 初耳」
兄夫婦の仲睦まじい会話に、両耳を塞ぎたくなって。
思わず手を伸ばした、シャンパングラス。
しかし、細い指先が掴んだのは、その隣――ミネラルウォーターが注がれた、青いグラスだった。
「ヴィヴィ……?」
隣の席でガブガブ水を飲み干す妹に、双子の兄が珍しく、大きな瞳を瞬いていた。
「什麼?
――なあに?」
薄い唇の端を濡らしながら、問うヴィヴィに、
「为何中文说着?
――どうして、中国語、なの……?」
クリスは自分のナプキンで、その雫を拭ってくる。
「Io stavo imitando lo straniero che non capisce lingua madre.
――母国語が解んない外国人の真似、してたの」
握り締めていた青いグラスに、後ろから五十嵐が、ガス入りミネラルウォーターを継ぎ足してくれる。
「Perché?
――どうして……?」
「In qualche modo.
――な、なんとなく……」
とぽとぽと注がれる静かな水音に、ぼそぼそと小さな双子の会話。
“外国人ごっこ遊び” を繰り広げる2人の応酬に、兄の執事がふっと笑い声を漏らしていた。
「Крис,почему вы говорите по-итальянски?
――クリス、何でイタリア語で話すの?」
「Потому что Виви милый.
――ヴィヴィが、可愛いから……」
流暢なロシア語で返されたクリスの返事に、一瞬硬直したヴィヴィ。
「……っ Σ(*゚ω゚*ノ)ノ ファ……っ!?」
(か、可愛いって……っ!?)
双子以外に通じない会話の末、思わず椅子の上で仰け反った末娘に、
ダイニングにいた両親と兄夫婦が、驚いて振り向いた。
「何やってんの、ヴィヴィ」
若干、呆れ顔の母に、
「あはは。双子は昔から、2人だけの “流行遊び” あったからねえ~♡」
21歳の息子と娘に、未だデロンデロンに甘い父。