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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第10章
残り数段を踏みしめながら、
ヴィヴィはため息を零す様に、残りの歌詞を諳んじた。
quisquis amat taliter,
volvitur in rota.
―このように 恋するものは誰であれ
“苦悩の車輪” に振り回される
皮肉な最期を歌い切り。
2階の踊り場に佇む、双子の兄の前に立った。
その途端、
「…… “苦悩の車輪” に振り回され続けて、その先には一体、何があるんだろうね……?」
静かな口調で答えを求められたヴィヴィは、迷わずに発していた。
「何も無いんじゃない?」
「………………」
妹の返事が予想外だったのか。
珍しく片眉を微かに顰めたクリスにも、ヴィヴィは視線を逸らさなかった。
「苦悩と同じだけ、歓びがある内は良いけれど」
そこで、ふっと息を吐き出した薄い唇。
「歓びよりも苦悩が勝って、心がそれだけに支配されたら――」
続けられた言葉に、目の前に広がる年代物の硝子戸が、吹き付ける風に がたがたと悲鳴を上げ。
そちらに一瞬、視線を外したヴィヴィ。
「人はどういう選択を取って、どういう末路を迎えるんだろうね――?」
自分自身に問い掛ける様に、目の前の双子の片割れに呟けば、
「……ヴィヴィ……?」
何故か、自分そっくりの灰色の瞳に、当惑の色を浮かべている相手。
2人だけに流れる、冷たさは無いが 張り詰めた空気。
けれど、それを一笑に付したヴィヴィは、
「なんて、ね~~?」
明るい声で続けると、目の前のクリスの肩をポンと叩き。
その横をすり抜けて行ったのだった。