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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第10章
ヴィヴィが公の場で、王子との噂を否定した日曜日の夜。
定時にかかってきたSkypeで、ヴィヴィは匠海とくっちゃべっていた。
いつも通り、妹をからかっては ご満悦の兄と、
常と同じく、反抗しながらもデレデレの妹。
ただ薄い胸の内は、浮かべている微笑みとは真逆にあった。
(なんで……何も、言って来ないんだろ……)
今から8時間前。
メディアに向けて己が発した言葉は、確実に日本でもニュースになっている。
実際 騒がれ始めた昨日の内に、日本の友人達からは、励まし・同情・からかいのメールや電話があった。
なのに、自分の “恋人” と主張する不倫相手は、
昨日も今日も、一度もその事に付いて、言及してこないのだ。
(……私のこと、なんて……。どうでも、いいのかな……)
一方的に怒られても困るけれど。
だからと言って全く無視されるのも、自分の口から説明する機会をも、剥奪された気がして。
(私が誰と関係を持とうが、お兄ちゃんと逢った時にちゃんと受け止められれば、お兄ちゃんはそれで、良いのかもしれない……)
『おっと、長々喋っちゃったな。ヴィクトリア、ちゃんと寝るんだよ?』
日本では翌日の月曜なので、匠海は出勤する為に電話を終わらせようとしてくる。
「う、うん……」
『お前、どんどんクマが酷くなってるぞ? 頑張り過ぎて体調崩したら、元も子も――』
「あ、あの……」
おずおずと、兄の言葉を遮ったヴィヴィ。
『ん?』
微かに首を傾げ、覗き込んでくる画面越しの兄に、
何もやましい事はしていないのに、若干の後ろめたさを覚えていた。
「あの……、えっと……。……フィリップとは、何にも無い……から」
『うん』
短い相槌だけを寄越す匠海に、次いで唇から零れたのは、
「……怒って、る……?」
(だから、何も聞いてくれないの……?)
『いいや。怒ってないよ』
ふっと笑みを零し、切れ長の瞳を柔らかく細める相手。