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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第10章

最上階の7階フロアに降り立った途端。
ヴィヴィは何故か、妙な居心地の悪さを覚えていた。
明らかに他のフロアとは差のある毛足の長い上質な絨毯は、グレー地に白の□が散りばめられたモダンなもの。
湾曲した廊下に間隔を置いて、ぽつりぽつりと認められる扉の数は、
それぞれがスイートやエグゼクティブ・ルームという、広い客室である事を物語っている。
穏やかなクラシックが流れる、妙々たる空間。
今朝は自己嫌悪に陥っていてそれどころではなく、全く気にはならなかったのに。
「………………」
この肌で感じる違和感には、覚えがあった。
高校生の頃、久しぶりに足を向けた父と兄の職場――篠宮證券の本社社屋。
父のいるエグゼクティブフロアに踏み入れた時の、不釣合い感。
そう、それは――
滅多に足を踏み入れる事も無い、富裕層を顧客に持つハイブランドのメゾンに、立ち入ってしまった時の居た堪れなさに似ている。
(なんか……、6歳差って、こんなに凄かったっけ……?)
戸惑いながらも、ベージュパンプスの脚を進める。
年・社会的地位・信頼度の差を、まざまざと知らしめられ。
若干凹みながらも辿り着いたのは、今朝方 勝手に出て行ってしまったスイートの一室。
そこでぴたりと両脚を揃え、そして自分を正す。
先刻、ISUのお偉いさんを酔い潰して いい気になっていた自分が、今更ながらに恥ずかしい。
彼は(酒癖が悪いのは玉に傷だが)社会的地位も名誉もある大人。
一方の自分は、今はスケートで活躍出来ているからチヤホヤされているが、ただそれだけのしがない一学生。
(はぁ……、なんだかな……。もっと大人に、ならなくちゃ……)
そう猛省しながら、やっとベルを押し。
10秒程して中から開けられた扉に、まるで 鼻面で赤旗を振られた闘牛の如き勢い で突っ込んで行った。

