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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第10章     

「おっとっと。こら、ヴィヴィ……っ」

 20cmの身長差をものともせず首根っこに飛び付いては、ちゅっちゅと唇を押し付けてくる妹に、

 受け止める方の匠海は、目を白黒させていた。

「 “ヴィヴィ” じゃないもんっ」

 薄い唇を尖らせ むすっと反抗するヴィヴィに対し、咄嗟の事で言い間違えた匠海は苦笑しながら謝る。

「ふ。ごめんって。逢いたかったよ “ヴィクトリア” 」

 首に両腕を絡ませ、めい一杯背伸びした状態の妹は「知ってる~~」と当然の様に嘯いた。

「そうか?」

 細腰を支えながら切れ長の瞳を細める兄に、ヴィヴィはまた グロスたっぷりの唇を押し付ける。

 匠海の大き目の唇の周りは、テカテカつやつやで大変な事になっていた。

「でも私の方が、もっともっと会いたかったもんっ!」

 1分前に「もっと大人にならなくちゃ」と反省した、舌の根も乾かぬうち。

 甘えた全開のヴィヴィに、何故か頬を緩めてメロメロの様子の匠海。

 小ぶりな尻の下を両腕で支える、まるで幼児の様なだっこをすると、

 リビングスペースへ移動しながら、妹を真似 ちゅっちゅと薄い唇を啄んでいた。

 グレーのスウェード地ソファーに、長い脚を投げ出すように腰を下ろした匠海は、

 その間に立たせた妹の腰に両腕を絡ませ、まるで夢見るように切れ長の瞳を潤ませる。

 グレーを基調としたインテリアに、オレンジの刺色が効いたモダンなスウィートルーム。

 今朝は暗かったし、気持ち的にもそれどころじゃなかったが、こんな部屋だったのか。 

 きょろりと部屋に視線を走らせたヴィヴィの気を引くように、腰を抱く腕に力が籠められる。

「ラビットファー? 可愛いな」

 華奢な肩と二の腕を包み込む毛皮のショールを、視線で指し示す兄に、

「ウサギ、あたたかい」

 何故か片言の日本語で呟く妹。

「ウサギって」

と苦笑する兄を、微かに首を傾げながら見下ろしていたヴィヴィは、その時になってやっと、匠海がスーツ姿であることに気付いた。

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