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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第12章      

「帰ろう、ヴィヴィ……」

 耳元で静かに囁かれた兄の言葉に、妹は ぎこちなく首を振った。

「……私、ホテル、泊まる……」



 もう、一杯いっぱいなのだ。

 これで精一杯なのだ。

 今にも溢れそうな表面張力。

 その限界ギリギリに、今のヴィヴィは立っていた。

 社会人として、与えられた役目は完璧に熟す。

 けれど その為にも、プライベートは独りになりたかった。

 全部、全部、身から出たサビとは、解ってはいても。

 昨日の今日で自分が出来る事なんて、これくらいが限度だった。



 幸いにも本日はクリスマスの翌日で、かつ平日。

 ホテルも空室があるだろうと、予測しての甘えだったのだが。

「Non ha stasera.
 ――今夜は、もう居ないって……」

「え……?」

 イタリア語で吹き込まれた囁きの意味が分からず、戸惑いの声を上げれば。

「Andò a casa di Shirokanedai.
 ――帰ったって、白金台に……」

 そう続けられた言葉に、クリスなりの気遣いが滲んでいた。

「だから……」

 そっと握られた片手。

 ふいに包み込まれた暖かさに、思わず涙が込み上げそうになって。

「……あ、りがと……」

 ぼそりと礼を述べた妹に、兄は「真っ直ぐ松濤に戻って大丈夫です」と運転手と牧野に代弁してくれたのだった。





 松濤の屋敷に戻り、明日に備えて手早く就寝準備を済ませれば。

 ベッドに入った途端、ベッドサイドに置かれたスマホには、本日 何度目になるか判らぬ受信があった。

 バイブにしていても解るよう、唯一 特徴的な振動音に設定していた相手。

「………………」

 見られる訳など無かった。

 そして、

 見たくも無かった。



『……謝る、のは……っ わ、私の……ほう……』



 そう発した言葉に、嘘は無いけれど。

 それでも、

 兄に対し、心の奥底にもやもやと燻るものが残っているこの現状は やはり、

 自分の中に「お兄ちゃんに裏切られた」という気持ちが、少なからず有るという表れだろう。

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