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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第13章      

 その日の深夜――

 富士山テレビのスポーツ番組では、同日に行われた世界選手権 2024のダイジェストが流されていた。

「女子シングルの最終グループを一番沸かせたのは、15歳の全米新女王でもなければ、現在世界ランキング1位のヴィヴィアン・リー選手でも無く、前世界女王――篠宮 ヴィクトリア」

 演技冒頭、氷の上に両膝を揃えて座り込むヴィヴィ。

 そこから助走に乗り、着氷後の流れのある3回転アクセルを降りる。

「1本目のアクセルを決めた篠宮は、続くループとのコンビネーションも見事着氷」

 3回転アクセル+3回転ループも、立て続けに決め。

 切り替わった映像では、キス・アンド・クライで、ショーンコーチとクリスに挟まれた姿が映し出されていた。

「今シーズンのSBを塗り替え、SP1位 FS1位の文句無しの7連覇を果たしたにも関わらず。順位を見て頷いただけの篠宮選手。その後もずっと、コーチと真剣な表情で話し合っているのが印象的でした」

 その後、流された滑走後のインタビューでも、ヴィヴィの受け答えは勝者とは思えぬ、淡々としたもので。

「表彰台では、2位のヴィヴィアン・リー選手と抱き合い、笑顔を見せていた篠宮選手。気になった我々取材班は、ショーン・ヘッドコーチにお話を伺いました」

 会場の外と思われる夜空の下、マイクを向けられた白髪のお爺ちゃんコーチが口を開く。

『出来に納得はしているけれど、満足はしていない様子だね。国別(対抗選手権)が終わったら早速、新たなトレーニングを重ねたいと申し出てきたよ』

「篠宮選手はどんなところに、重点を置くべきと考えているのでしょう?」

 選手本人には曖昧にはぐらかされた問いにも、コーチは丁寧に答えていた。

『「集中力と瞬発力が足りない」って言ってたね。それを来シーズンに向けて培いたいと。まだまだ自分の伸びしろがあると、自覚しているところは頼もしい。チームスタッフで全力を尽くすよ』

 そう言って皺くちゃの片手を上げたコーチは、他のスタッフと共にタクシーへと乗り込んだのだった。





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