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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第13章
世界最高峰を決める1週間の戦い。
その興奮も冷めやらぬ内、スウェーデン・ヨーデホリからオックスフォードに戻り。
たった3日間のホームでの調整を経て、次に向かったのは、
STARS ON ICE 2024の公演の地――愛知県だった。
3月29日(金)――ショーの前日。
会場の愛知県体育館には、そのショーの名に恥じぬ(日本を中心とした)各国のスター選手が揃っていた。
アダム・ノッポン(USA・35)プロデュースの、日本選手オンリーのグループナンバー。
その振付を受ける為、準備を整えて特設リンクに現れた双子。
2人の様子は、この1週間で3カ国を渡り歩いたとは思えぬくらい元気だったが、
古くからの付き合いである下城 舞は目ざとく、妹分のヴィヴィの傍へと寄って来る。
「ちょっと~。ヴィヴィってば、なんかやつれてない?」
薄手のダウンを纏った腕を掴み、心配そうに覗き込んでくる舞に対し、
薄い胸の中にスケート靴を抱き締めていたヴィヴィは、細い眉を情けなくハの字に下げる。
「う゛……うん、ちょっと……」
「やっぱ疲れるよな~。俺らだって日本へとんぼ返りでも、まだ疲労抜けないし」
舞を追って来た成田 達樹は、傍らのクリスの腹を軽く殴りつつ ぼやいてくる。
しかし、
「あ~~……。そ、そうじゃなくて……」
何故か もにょもにょと言葉を濁すヴィヴィ。
確かに世界選手権という、一時も気を抜けない国際試合の疲労も、後を引いているのだが。
「ん? 「そうじゃない」って?」
「……ここのところ、夢見、悪いの」
舞に促され、そうゲロったヴィヴィは、心底げんなりとした表情を浮かべていた。
「悪かったって、どんなの?」
「……お、お岩さんに祟られたり……、ヌリ壁に追い駆けられたり……?」
自分の夢なのに何故か疑問形で答えたヴィヴィに、双子の兄は “超の付く怖がり” の妹に同情し、
「可哀想に……」
そう呟きながら、20cm下にある金の頭を撫で撫でしてくる。