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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第13章
男性テノールとバスの、分厚いけれど囁く様な声音。
『だが 華やかな至福のときも 今は昔
私は栄光の頂から 突き落とされた』
軸足で3の数字を描くスリーターンを挟んだ後、
右のエッジに左のトウを突いて飛び上がった3回転トウループ。
「ステップか~ら~の~、3回転トウループ」
演技前半の3つのジャンプを手堅く纏めたヴィヴィが、
金管楽器が際立つオーケストラの中、レイバックスピンへと入る。
『運命の女神の車輪は回る
私は落ちぶれ
他の者は高みに昇る』
氷面と平行に背を反らしたレイバックスピン から キャッチフット・レイバックスピンへ。
ラストは柔らかい股関節を生かし、美しい0を描いたビールマンスピンで締め括る。
『頂にある王よ 破滅を恐れよ!』
演技前半、残す要素は――フライング・キャメルスピン。
『車輪の下には 滅んだトロイの女王
ヘクバの名が見えるが故に』
山吹色の裾をはためかせながら ひらりと飛んで入った、バタフライからのキャメルスピン。
大きくV字に開いた金の縁取りが とろりと輝く背で、弧を描いてのドーナツスピン。
そして、片手でブレードを掴み片手をフリーレッグの膝に添えた、ハーフビールマン。
硬質なティンパニの音色に導かれたオケの旋律。
それがすっと途絶えれば、演技は後半へと突入した――
日本最大の収容人数を誇る、埼玉スーパーアリーナに轟くのは、
畏怖を煽る おどろおどろしいドラの音と、混声合唱の重厚な歌声。
その深い重低音に覚醒した灰色の瞳が、青マスカラで彩られた睫毛越し、一層強さを増す。